【9月8日 AFP】米ニューヨーク(New York)で10日からニューヨーク・ファッションウィークが始まるが、多くの人はランウェイを歩くモデルではなくその横にいるスレンダーな人物に目がいくかもしれない。米ファッション誌「ヴォーグ(Vogue)」の女帝、アナ・ウィンター(Anna Wintour)編集長だ。

 11月で60歳を迎えるウィンター氏は、世界のファッション業界で最も力のある人物だと言われることが多い。

 しかし、ページボーイカットの髪型に黒っぽい大きな眼鏡で知られるウィンター氏は、有名であるのと同じように謎めいてもいる。新しく公開されるドキュメンタリー映画『ファッションが教えてくれること(The September Issue)』が、その謎を深めている。

■『プラダを着た悪魔』で有名に

 ウィンター氏のことを知っているという人は多いだろう。ヴォーグでの同氏の君臨ぶりが基になっているといわれる人気映画『プラダを着た悪魔(The Devil Wears Prada)』のおかげだ。この作品では、メリル・ストリープ(Meryl Streep)が架空の雑誌「ランウェイ(Runway)」の横暴な編集長を演じている。

 この注文の多い人物がウィンター氏であることを誰も疑わなかった。この映画の原作となった小説は、ウィンター氏の元アシスタント、ローレン・ワイズバーガー(Lauren Weisberger)が書いたものでもある。

 しかし、『ファッションが教えてくれること』は、野心家だが温厚なウィンターの性格を明かし、この「氷の女王」に人間味を与えている。

 R・J・カトラー(R.J. Cutler)を中心とする撮影スタッフは、史上最も厚い雑誌となった2007年9月号が次第に形を成してきたころ、ヴォーグ誌編集部を8か月かけて取材した。

 この映画では、ウィンターの珍しい生活の内幕だけでなく、偶然にも、前年の深刻な不況前の経済の絶頂期も見ることができる。840ページにわたる同号の中で727ページが広告に当てられているのだ。最新号では広告掲載に使われているのが300ページ以下だということを考えれば、出版社、そしてファッション業界も直面しているこの金融不安からは考えられない世界だ。

■ファッション業界トップに立つウィンター氏の影響力

 当時と現在で変わっていないものは、多くの人々のトップに立つウィンター氏の立場だろう。

『ファッションが教えてくれること』は、デザイナー、衣料品の製造業者、店舗、そして購入者にまで及ぶウィンター氏の影響力を生き生きと描いている。

 高級衣料品チェーン、ニーマンマーカス(Neiman Marcus)のCEOとウィンター氏が会議をしている場面がある。CEOは、ウィンター氏が今後どんなデザイナーを支持するのか尋ねる。自社の店舗でそのデザイナーの服を目立つ位置に置くためだ。

「アナが表紙に載せるまでは、誰も毛皮なんて着ていなかった」とこのCEOは語る。

 ヴォーグ誌の表紙は特に注目されている。その理由の1つは、ウィンター氏の新しいアイデアだ。20年前に編集長に就いたウィンター氏はモデルだけを表紙に使用していた伝統と決別し、有名人も使うようになった。その結果、売上も増加した。

 ウィンター氏は内部も厳しく管理し、時には話し合うことなく作業を打ち切ることもある。

 ヴォーグの発行人トム・ フローリオ(Tom Florio)氏が映画で言っているように、「同誌は常にアナの視点」なのだ。(c)AFP/Paola Messana

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