【8月9日 AFP】東京・原宿がメッカとされる「コスプレ(Cosplay)」は、いまや世界中にカルト的な信奉者がいる日本発の一大カルチャーだが、名古屋市で今月1日、15か国のコスプレ大会の優勝者が一堂に会し、コスプレ世界一を競う「世界コスプレサミット2009(World Cosplay Summit 2009)」が開催された。世界から集まった出場者も参加者も、凝った手作りの衣装に体をすべり込ませて「もう1人の自分」を思う存分、解放した。

 コスプレをする人たち「コスプレーヤー」たちが選ぶ自分の分身は、海外で有名な「ゴシック・ロリータ風」から漫画やアニメ、ビデオゲームのキャラクターまで、手持ちのカードが切れることはない。そうした現実とは別のパラレルワールドに住むキャラクターたちは、たいてい若者たちが母親に借りたミシンで「再生」されている。

 血のように赤い不吉そうなめがねをかけ、ビクトリア朝風のコートを羽織ったジェラウド・ホセ・セシーリョ・ジュニオール(Geraldo Jose Cecilio Junior)さんは、ブラジル・サンパウロ(Sao Paulo)でコンピュータを専攻し、今は俳優をしている。この日、選んだのはアニメ『ヘルシング(Hellsing)』の吸血鬼の主人公アーカード(Alucard)だ。

 米オハイオ(Ohio)州から来たカトリーナ・ウェバー(Katrina Webber)さん(21)は「マフィア漫画」、『家庭教師ヒットマンREBORN!(Katekyo Hitman Reborn)』のキャラクター、クローム髑髏(Chrome Dokuro)の衣装を作るのに4日間を費やした。「クロームは眼帯をしてるわ。かっこいいけど、歩くのが大変。いろんなものにぶつかってしまうわ」という。

 コスプレの人気キャラクターたちは、鉄腕アトム(Astroboy)やハローキティ(Hello Kitty)など、伝統的な日本の漫画やキャラクターに扮(ふん)していた時代から進化し、今は大人は名前を聞いたこともないような最新のキャラクターであふれる。

■「コスプレ2.0の時代」――コスプレの父、高橋信之氏

 黒いTシャツ姿という目立った格好で、ファンタジーの祭典「コスプレサミット」を満足そうに眺める男性がいた。「コスプレの父」と慕われるサブカル系ライター兼デザイナーの高橋信之(Nobuyuki Takahashi)さん(52)だ。

 高橋さんが初めて「コスプレ」という言葉を使ったのは1984年、ロサンゼルス(Los Angeles)で開かれたSFファンの大会を訪れたときだっだという。当時、コスプレに近いことをしていた現地の人びとはそれを「マスカレード」と読んでいたが、それではベネチア発祥の仮面舞踏会とだぶってしまうと思った。

 自分も『バーバレラ(Barbarella)』など米国の古典SFファンとして育った高橋さんによると、日本のコスプレのルーツは1970年代に10代の若者たちが、怪獣ゴジラ(Godzilla)の仮面やゴジラ柄のTシャツなどを着だしたあたりだという。

 当初は関心をもったのは少年ばかりだったが、成人向けをも含む漫画でメイドや女子学生スタイルが流行り、そうした「制服」や漫画の登場人物たちの格好を少女たちがファッションとして取り入れ始めたころから「コスプレ」として火がついた。

 以来、インターネットやデジタル画像の隆盛に押され、コスプレは世界的なサブカルチャー現象となっている。高橋さんによると、日本だけでも50万人のコスプレ愛好者がいるという。コスプレをしている少女の写真を撮影する「カメ小(カメラ小僧)」はこの数に入っていない。「カラオケに行けば、みんなロックスターのふりをする。コスプレでは、漫画のキャラクターになれる。コスプレは表現方法のひとつで、自分をリフレッシュすることをみんな楽しんでいる。現実世界からの逃避とは違う」

 世界的に盛り上がった今、コスプレで扮装されるキャラクターも、日本の漫画にこだわらずもっと世界中の国のキャラクターを反映し、「国際化だからコスプレもコスプレ2.0の時代」になるべきだと、高橋さんは言う。

 しかし、コスプレ界では、キャラクターは「日本製」であるべきかどうかで議論は分かれている。先のオハイオ州出身のウェバーさんは「そうね。ハリー・ポッター(Harry Potter)の格好をした人をコンベンションで見たら、わたしはそれはコスプレじゃなくって、ただ『コスチューム(衣装)』って呼ぶわね」という。

「それはいまいちだからかって? そうは思わないわ。けれど、アニメコンベンションのものなのかどうかって思う。そういう人たちは、ただ普段と違う格好をして、同じように扮装した人たちと一緒にいるための口実を探してるだけじゃないかしら」。それでもいいとウェバーさんは笑いながら言う。「それは賛成よ、その気持ち、分かるもの」(c)AFP/Frank Zeller