【7月18日 AFP】名城悠(Yutaka Meijo)さん(18)は、カメラを構えて焦点を合わせ、シャッターを切る瞬間を待つ。耳とカンだけが頼りだ。彼は7歳の時、視力を失った。

 視覚に障害をもつ友人たちがピンポンを楽しむ様子を、ボールの中に入っている鈴の音を頼りに撮影しながら、名城さんはこう話す。

「音を頼りに撮ります。でも、カンが働くんです。そして、シャッターチャンスだと思うと躊躇せずにシャッターをきる。その瞬間は二度とこないんだ。これがボクの写真を撮るときの秘けつかな」
 
 横浜市立盲特別支援学校では、名城さんら23人の生徒が「心の目」で写真を撮っている。彼らの写真は次第に注目を集めるようになり、前年に続き今年も6月1日、東京で作品展が開かれた。

■子どもたちが「心の目」で撮る写真

 彼らが生まれて初めてカメラを手にしたのは、2年半前。土門拳賞など数々の賞を受賞している写真家の菅洋志(Hiroshi Suga)さんが学校を訪れ、写真教室を開いたのだ。

 菅さんは、子どもたちは「心の目」を持っている、と言う。「最初、彼らにカメラを教えたとき、後前・上下、逆に持つ子もいたし、レンズを手で覆ってしまう子もいた。でも、彼らはあっというまに習得しちゃった。そして彼らの写真をみたとき本当にびっくりした。素人の写真の域を超えていた」

 菅さんは、デジタルカメラではなく、昔ながらのカメラを与え、「なんでも好きなものを撮ってごらん」と指示した。そして、家族、先生、友人、ストリートパフォーマー、犬、電車、城、花、路上の点字ブロックなどの写真ができあがってきた。

 生徒たちはハンディを補うために、独自のテクニックを磨いた。被写体の気を引こうと、カメラを指先でコンコン叩くというのもその1つだ。

 菅さんは前年、彼らの写真展「子どもは天才」を企画し、横浜や東京などで開催した。「Kid Photographers」など2冊の写真集も出版し、7000部以上を売った。

「写真は自然で正直。僕はいつも、『写真は、写すその人自身を写す』って言ってきた。そして、彼らの写真はボクが間違っていなかったことを再確認させてくれた。人生に限界なんてないんだよね。彼らは不自由かもしれないが、ふびんじゃない」と菅さんは話す。

■人生に「限界」なんてない

 吉田かんな(Kanna Yoshida)さん(14)は、片時もカメラを離さない。「写真を撮るとその風景をとてもよく覚えることができるの。私は子供の写真を撮るのが好き」

 彼女の写真の1枚には、早春の公園で遊ぶ男の子の姿が。男の子は、かんなさんが向けるカメラのレンズではなく、明らかにかんなさんの目を見つめている。

「ぼくは友達を撮るのが好きです。かあさんが言ってたけど、僕の写真の人はなぜだかみんな笑ってるって」と話すのは、上野裕太(Yuta Ueno)君(12)。

 被写体との距離は耳で測るのだと言う。「ボクは色というものがわかりません。でも、自分のもてる想像力を駆使して写真を撮るんです」

 上野君はシャッターを押すまねをして、笑いながらこう続けた。「フレームにきちんと収まるなんて考えません。写真を撮ること自体が楽しいんです、特にシャッターを切るあの瞬間が。写真が嫌いな人なんていないんじゃないのかなぁ」

■写真を通じて世界が広がった

 だが彼らは、自分の撮った写真を見ることができない。 

 4歳の時に事故で視力を失った鶴井孝大(Takahiro Tsurui)君(14)は、「もちろん、自分が撮った写真は見れません。でも、撮ること自体に意味があるんです。風景は観ることができない。でも、何を撮っているのか想像できます。撮った写真をアルバムに整理していると思い出がよみがえってくるんです」と話す。

 だが、写真を通じて、外出したり人と話したりすることに自信が持てるようになったと言う。「将来どんな仕事につくかわからないけど、写真だけはこれからもずっと撮り続けたい」(c)AFP/Shingo Ito