【6月3日 AFP】つい最近、建国60周年を迎えたイスラエルは、エジプトで売られている地図には載っていない。

 首都カイロ(Cairo)の大きな書店で売られている地図を見ると、イスラエルおよびイスラエルが占領した場所には、アラビア語で「パレスチナ」と記されているだけだ。

 建国から60年、そして、翌79年にエジプト・イスラエル平和条約締結に至った78年のキャンプデービッド合意から30年経っている。それなのに、エジプトにとってイスラエルはいまだに「バーチャル(仮想)」な存在でしかない。

 教育省が承認する教科書は、イスラエルの建国について触れていないわけではないが、建国の経緯など、多くの問題をはらんだイスラエルの歴史は、アラブ側の観点から説明されている。

 エジプトは、アラブ諸国の中では真っ先にイスラエルを承認した国だ。だがアラブ連盟(Arab League)加盟国の中では、エジプト、ヨルダン、モーリタニアを除く18か国はいまだにイスラエルを公式には認めていない。

 エジプトで販売される地図は、シリアやレバノンで製造される場合が多い。

 カイロの繁華街で本屋を営むイブラヒム(Ibrahim Mahmud)さんは、「イスラエルの名前を載せた地図なんてない。平和条約があろうがなかろうが、このことに関しちゃ他のアラブ諸国に従うのさ」と語る。

 アラブ諸国がイスラエルとの「国交正常化」を拒否している中で、エジプトの図書館にはイスラエル人が書いた本はなく、エジプトの映画館ではイスラエル映画が上映されない。「イスラエル」が人々の意識に定着することを恐れているためだと、複数の専門家は指摘する。

 アル・アハラム財団(Al-Ahram Centre for Political and Strategic Studies)の研究員、エマド・ガド(Emad Gad)氏は、「一種の統合失調症。痛ましい現実逃避だ」と語る。「冷たい平和は確かに存在する。社会階層のてっぺんには対話とビジネスがあるが、底辺層には何もない」

 前週、ファルーク・ホスニ(Faruq Hosni)エジプト文化相は「イスラエルの本を燃やす用意がある」と発言し、イスラエルの駐エジプト大使とユダヤ人権擁護団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(Simon Wiesenthal Center)」から集中砲火を浴びた。

 ホスニ文化相は、「何か(=イスラエルの本)が存在しないことをただ言いたかっただけ」と、自身の発言を擁護。イスラエルがパレスチナとの和平を確立するまで、イスラエルとの文化交流は断固拒否すると語った。

 同文化相のイスラエル強硬姿勢は、エジプトの知識人やアーチストの間では広く知れ渡っている。(c)AFP/Alain Navarro