【AFP】2歳にも満たないベトナムの男児Phung Thien Nhan君が、その身に起きた恐ろしい出来事と少し生意気な笑顔で国民の心を引きつけ、全国から支援の申し出が相次いでいる。

 男児は人里離れた貧しい山村で10代の母親に産み落とされた後、家の外に捨て置かれた。この事件が新聞に報じられたのは2006年のこと。パパイアの葉や笹の下に隠された男児は右足をイヌと見られる野生動物にかみ切られ、足の付け根をひどく負傷した。

 そんな男児が真っ青な顔で血まみれになり、体にアリがたかっているところを村人たちが発見した。

 病院に運ばれたのは捨てられた3日後のことだったが、奇跡的に一命をとりとめた。容体を安定させるために足は臀部(でんぶ)で切断された。男児は僧侶らによって「Thien Nhan(「善人」の意)」と名付けられた。

 2か月後、あろうことか地元政府はNhan君を家族の元に返し、祖父母の保護の元に置いた。その後、Nhan君について報じられることはなくなり、多くの人はNhan君が死亡したと思っていた。

■新しい親のもとへ

 しかし、ハノイ(Hanoi)のジャーナリストTran Mai Anhさん(35)の頭からNhan君が消えることはなく、夜になると彼の身に起きたことを想像して苦しんだ。そして、彼女の最悪の恐れは現実となった。

 数か月の調査のかいあって、12月にNhan君の家族が住む小屋を突き止めた。Nhan君はひどく放置され、汚れ、無気力で、下痢を患っていた。

 Mai AnhさんはNhan君を医療センターに運び、1か月前、夫でジャーナリストのPhung Quang Nghinhさんとともに、Nhan君を養子にした。

 夫妻はNhan君をハノイに連れ帰った。病院では無料で治療が施され、ドイツのチャリティー団体VietCotはNhan君の容体をこれ以上悪化させないために、緊急に必要とされた義足を手作りで作った。Nhan君が普通の生活を送るために必要な整形手術やホルモン療法について、夫妻は複数の国際病院に連絡をとった。

 このニュースはメディア、インターネットフォーラム、職場などで瞬く間に広がった。

 何百人もの人が電子メールを送ったり、おもちゃやベビー服を持って、また、Nhan君と遊ばせるために自分の子どもを連れてハノイの夫妻の自宅を訪れた。

「たくさんの人が(Nhanを)一目見るためだけに訪れた。生きていることが信じられなかったようだ」とMai Anhさんは語る。「みなが支援を申し出てくれる。こんなにたくさんの善人がいるとは知らなかった」

「田舎から来たある高齢の女性は、節約したお金をくれると言い張った。彼女は目の手術を受ける予定で、何かあった場合を考え、その前にNhanを見たがっていた」

 夫妻の友人たちはネット上(www.help-thien-nhan.blogspot.com)にブログを立ち上げ、手術や治療のための資金を募る口座を設けた。寄付は数万ドル(数百万円)に上る見通しだ。

■おもちゃが何かも知らなかった

 当初、Nhan君は部屋の隅に隠れ、泣き、座ったままでしか寝ることができなかった。

「バナナと冷や飯しか食べなかった。それが知っているすべてだったからだ」とMai Anhさん。「おもちゃが何かも知らず、彼にとっては無意味なものだった。テレビの前に座らせてみても、まるでテレビが見えていないかのようだった」

 新しい家族と1か月を過ごしたNhan君は、明るく訪問者を迎え、おもちゃで遊び、兄のMinh君(8)の弾くピアノに合わせて、新しい義足を付けた体を揺らすほどになった。

「感情はまだ安定しないが、ずっと幸せそうだ。今は何でも食べる」と語るMai Anhさんは「それに、太ってきている!」と怒ったふりをしてみせた。(c)AFP/Frank Zeller