【12月26日 AFP】2008年の訪れとともに米国版「団塊の世代」、ベビーブーマーの退職が始まる。人口の多いこの世代の退職に伴い、米国の経済や政治、社会など幅広い分野で大きな影響がもたらされそうだ。

 ニュージャージー(New Jersey)州に住む1946年1月1日生まれのキャスリーン・ケーシー・ カーシュリング(Kathleen Casey-Kirschling)さんは、米国で一番目のベビーブーマーとして知られている。2008年から受給する社会保障給付金もベビーブーマー第1号として申請済みだ。

■ゴルフに行くだけの世代にはならない

 1946年から1964年に生まれた推計8000万人の米国人は、1960年代の社会革命を先導し、社会構造の大半を変革してきた。

 一方、各種推計によると、ベビーブーマー世代に対する社会保障費および医療費により、向こう75年の米国財政には40兆-76兆ドル(約4570兆-8680兆円)の不足が見込まれる。「ブーマーズ(Boomers)」と題するブログの執筆者ブレント・グリーン(Brent Green)氏によると、2010年までには米国人口の3分の1が50歳以上、5分の1が65歳以上になるという。

 アメリカン大学(American University)教授で『Greater Generation: In Defense of the Baby Boom Legacy(より大いなる世代:ベビーブーマーの遺産を擁護する)』の著者Leonard Steinhorn氏は、団塊の世代は「都会派でヤッピー的」などと誤解されることが多いが、米国的価値観や自由を高める運動を先導・維持してきたのはこの世代だという。運動の分野は環境から消費者運動、女性の権利や市民権、社会の多様化や人権運動などにおよび、「ゴルフに行くだけで何も行動しないような世代にはならないだろう」と分析する。

■退職後も新キャリアや社会活動を求める傾向

 50歳以上のユーザーを対象とするインターネットのソーシャルネットワーキングサイト(SNSEonsによると、50歳以上の米国人の可処分所得は計1兆ドル(約114兆円)に達し、米国の富の67%が集中しているという。

 ベビーブーマー世代には、インターネットなどハイテク技術を利用する人の割合も非常に高い。米世論調査会社ピューリサーチセンター(Pew Research Center)の生活調査報告「ピュー・インターネット・アンド・アメリカン・ライフ・プロジェクト(Pew Internet and American Life Project)」によると、2004年時点で50-58歳の3分の2がインターネットにアクセスしており、28-39歳の利用率と同程度だった。「ティービーディー(TeeBeeDee)」や「ブーマーカフェ(BoomerCafe)」といったベビーブーマーに向けたSNSも人気を集めている。

 また、米国人の約半数が退職後に新たに家を購入する傾向にあるため、働き続けたり、何らかの社会活動に参加する人も多いと予測される。

 米証券大手メリルリンチ(Merrill Lynch)で退職者向け商品のグループを率いるマイケル・ファルコン(Michael Falcon)氏は、米国社会は退職者のために「新たな生活モデル」を準備する必要があると指摘する。

 同氏は2006年に発表した報告の中で「さまざまな世代が就職・退職しては、また新たな職を求める。退職後の理想として、人生の後半で新たなキャリアを模索する人も現れている。このような退職に関する新しい概念を、企業側は認識しなければならない」という。同社の調査によると、回答者の71%が退職後に何らかの形で働くつもりだと答えている。

 PR会社役員で『Boomer Blog(ベビーブーマーのブログ)』の執筆者Carol Orsborn氏も、この世代は静かな隠居生活を営むよりも、夢を追うことを好むようだと指摘する。

■「米国は他国よりも高齢化に強い」

 経済的側面では、ベビーブーマー世代による「高齢化の津波」が米国の財政を枯渇させるのではないかとの懸念もある。だが、カリフォルニア(California)州を拠点にするコンサルティング会社Age Waveのデビッド・バクスター(David Baxter)副社長によると、米国にはそれを支える強みがあるという。

 同氏は「米国ではこれまで常に前の世代よりも後の世代の人口が増えていたため、大規模な『ポンジー・スキーム』のように、継続成長を前提にして社会が構成されていることは確かだ」と語っている。

 しかし、高齢化問題は欧州や日本の方が深刻だとして、「米国では、より自由な移民政策により、ある程度衝撃が和らげられる。また、労働人口により柔軟性がある。退職を強要することは米国では違法だが、大半の国ではそうではない」と楽観視している。(c)AFP/Rob Lever