【11月16日 AFP】韓国の大学入試センター試験にあたる「大学修学能力試験(College Scholastic Ability TestCSAT)」が実施された15日、韓国国内では時差通勤から飛行機の発着停止まで、交通網や経済活動が一斉に「大学試験シフト」を取った。

 同テストは終日実施され、全国で約60万人が受験した。学歴を何よりも重視する韓国社会では、この全国試験を円滑に進めるためならば毎年、どんなことでもする勢いだ。例えば女性の試験監督官は、男子受験生の気を散らさないように、ハイヒールや過度な化粧、香水の使用をやめるよう注意を促される。

■英語リスニング試験中、飛行機は地上か上空で待機

 翌年、学生たちが希望の大学へ入れるかどうかは、この試験結果によって決まる。高学歴になるほど階層化が深刻な韓国では、CSATの出来不出来は多くの場合、直接その後の長いキャリア人生を左右する。小学校から高校まで、12年間の学習の成果をたった1回の試験で評価することはばかげていると、このシステムを批判する声もある。

 しかし制度の是非はどうあれ、58万5000人が試験会場へ向かう朝、通勤渋滞をなくすために公務員および大企業の従業員は全員、通常よりも1時間遅れて出勤するよう命じられた。証券市場も同じ理由で、開始は1時間遅らされた。

 一方、地下鉄は増発され、バスやタクシーも稼働台数が増やされた。試験センター周辺の駐車は禁じられたほか、英語のリスニング試験中には車のクラクションを鳴らさないよう、ドライバーには警告が発せられた。

 空の便も同様だ。金浦(Gimpo)空港のLee Kun-Koo管制官によると、試験の時間帯に2回、民間の全国内線はのにわたり、地上で待機するか、高度3000フィート(約910メートル)以上にとどまるよう命じられた。その2回とは、試験開始後約20分間と、リスニング試験が行われる昼過ぎの約30分だ。

 また、カンニングなどの不正行為を予防するため、受験者は携帯電話、MP3プレーヤー、電子辞書など、時計以外の電子機器の持ち込みを禁じられた。
 
■「一発試験」での将来決定に批判も

 各地の寺には子どもの成功を祈る親が詰めかけ、願掛けなどの儀式も盛んに行われる。受験者にふさわしいとされる贈り物の中には「蓄えた知識をスムーズに繰り出せるように」と、ロール式トイレットペーパーさえある。
 
 試験結果が分かるのは12月12日。4年生の単科大学、総合大学で2008年に受け入れる学生数は37万8268人で、前年よりもやや増えた程度だ。

 教育の機会均等を推進する市民団体に所属するChung Kyung-Hee氏は、「CSATは廃止されるか、大胆に変革されるべきだ。学生たちから公正な競争を奪っている」と批判する。「若い学生たちの未来やキャリアが、この試験の結果次第になってしまっている。実際の能力に関係なく、トップの大学に進めるのはこの試験で選ばれた者だけに限られている」

 漢陽大学(Hanyang University)のCheong Jean-Gon教授(教育学)も、この試験の過程は「地獄だ」と言い切る。教授は中央日報の英字日刊紙JoongAng Dailyに、試験の当日に寝不足だったり、風邪をひいたりして良い成績を残せなければ、数年間の勉学の機会を棒に振るとの批判を寄せた。

「われわれの大学入試制度は生徒たちの心身を傷つけている。ひどい場合には自殺を選ぶ者が出るほど、彼らを追い詰めている」とJean-Gon教授は警告する。そして、学生が興味を持った科目を学習でき、意味のある高校生活を送り、知性と素晴らしい人柄を持ち健康な人間に成長できるような教育制度の導入を呼びかけている。(c)AFP