【10月14日 AFP】世界各国のブランド品販売がインド市場で拡大するなか、経済発展を背景に富がますます集中する同国の新富豪層は、豪勢な消費を享受している。

 英高級自動車・ベントレー(Bentley)は前週、首都ニューデリー(New Delhi)で新車2種を発売したが、その顧客層からも、インド独立以後没落への道を進む傾向にある王侯貴族と急速な経済発展で勃興した新富豪層の明暗が明らかに見て取れる。

 貧困と栄養失調がはびこり、識字率がまだまだ低いインドでこのような贅沢は節度を欠いていると見る向きもあるが、金銭で最高のものを手に入れようとする富裕層が非常に多いのも事実だ。

■新マハラジャ層の誕生か

 同国の作家シャシ・タルール(Shashi Tharoor)氏は著書「The Elephant, The Tiger and The Cellphone(ゾウ、トラ、携帯電話の意)」の中で、「インドに住む富裕層はアジアで最多」と書いているが同時に「外国に比べ多くの国民が生活をなおざりにし、未就学児童の数も多い」とも述べている。

 米フォーブス(Forbes)誌の大富豪ランキングに名を連ねるインド人は、世界最大の鉄鋼メーカー、アルセロール・ミッタル(Arcelor Mittal)の創業者ラクシュミ・ミッタル(Lakshmi Mittal)氏を筆頭に、民間石油会社リライアンス(Reliance)の経営者で兄弟のムケシュ・アムバニ(Mukesh Ambani)氏とアニル・アムバニ(Anil Ambani)氏、商社Aditya BirlaとITウィプロ(Wipro)を経営するアジム プレムジ(Azim Premji)氏など30人以上にのぼる。

 米金融大手メリルリンチ(Merrill Lynch)と仏ITサービス会社Capgeminiが2007年に行ったインドの富裕層の調査によると、100万ドル(約1億1800万円)以上の資産を保有する個人は現在10万人以上で、年間20%の割合で増加しているという。

 ベントレーの中東・アフリカ・インド担当役員は「かれら富豪はインドの新マハラジャ層と呼べる」とAFPの取材に話す。

■貧富の拡大を政府は憂慮

 このような状況を受け、マンモハン・シン(Manmohan Singh)首相は富裕層に対し、過度な消費行動を自制するようたびたび求めてきた。

 シン首相は、人口11億人のインドで一握りの富裕層に富が集中しているのは間違いだと嘆く。

 同首相は、1日1ドル(118円)以下の収入で暮らす数百万の貧困層には、この貧富の格差は永遠に受け入れがたい状態だと語る。

 今年6月シン首相は、「インドの現状は国民の富裕層には追い風となっている。経済成長の成果を全体に行き渡らせるためにも、富裕層による顕著な消費活動は控えるべき」との見方を示した。

■富裕層の購買意欲、衰えず

 それでも、日刊紙・ヒンドゥスタン・タイムズ(Hindustan Times)の「Splurge(贅沢・誇示)」、週刊紙India Todayの「Spice(趣)」、および週刊誌Outlookの「Envy(羨望)」などインドのメディアが西欧諸国さながらに専門ページや特集で消費を煽るなか、富裕層の購買意欲が衰える様子はうかがえない。

 五つ星のホテルは一泊の料金が300ドル(約3万5000円)を超えても満室の状態が続き、都市部の一流レストランは、料理一皿の値段が内陸部に住む数億人の月収より高くても、常に客があふれている。

 もっとも、穴だらけでデコボコなインドの道路では、数百メートルの平たん部分を探すことも困難であり、高級車を購入しても最高速度の半分の速度でしか運転できないので、庶民の留飲も少しは下がるといえるかもしれない。(c)AFP