【9月25日 AFP】自宅を抜け出す、誰かの家に上がり込む、会議をさぼる----。そんな微妙な状況の言い逃れに使うアリバイを提供するビジネスが、最近ウェブサイト上で増えている。すでに米国、英国、ベルギーなどで展開されているほか、スイスやフランスでもサービスが始まった。

 5月にサービスを開始したスイスの「アリバイ・ベトン・コム(alibi-beton.com)」は、フランス語、ドイツ語、英語の3か国語で運営されている。同社は「個々のニーズに対応した信頼に足る強固なアリバイを提供することができる」とし、サービス開始から約100人の顧客を救ってきたと自信をのぞかせる。

 アリバイ・ベトン・コムが提供するアリバイは、レストランやホテルの請求書、招待状、講演依頼、資料やメモ、飛行機や鉄道の予約、バッジ、ペン、男性または女性の声による電話など多岐にわたる。

 「わたしは想像力豊かなの」とサイトの創設者、Christine Barnicolさんは語る。本業は看護教員だが、仕事に飽きていた時に浮気性の友人のアリバイ作りを手伝ったことをきっかけにアリバイビジネスを創設。スイスのバーゼル(Basel)を拠点に、フランスでもサービスを提供している。ただし「何でも引き受けるわけではない」といい、「若い男性から試験をさぼるためのアリバイを依頼されたけれど、断った」と話している。

 元探偵のRegine Mourizard氏が最近フランスで立ち上げた「イビラ(Ibila)」も、ほぼ同様の原則に基づいて経営している。

 イビラのウェブサイト、「アリビラ・コム(alibila.com)」は電子メールまたは電話で注文を受ける。電話の場合、自動応答システムによる対応で顧客の状況説明を聞き、続いてアリバイ内容の提案と見積もりを提示する。

 イビラの利用料は、最も簡単な電話アリバイで19ユーロ(約3000円)、何らかの基本的な資料が必要になるアリバイが最高50ユーロ(約8000円)。複雑な案件はこれを上回ることもある。ただしウェブサイトによれば、アリバイが崩れた場合でも返金はしない方針だ。提供されるアリバイや裏付け資料は個人利用に限るとし、文書偽造関連のフランスの法律についても注意を促している。顧客が法律に違反してもイビラはいかなる責任も負わないという。

 3月に設立された「プレステージ・アリバイ・コム(prestige.alibi.com)」は、サービス開始以来、300件の利用があったという。

 「このビジネスはもうかる」と語る創設者は、9月初めにネットオークションサイト大手のイーベイ(eBay)で、同サイトを500ユーロ(約8万円)で売却した。ビジネスはフランス国内だけではなく、スイス、ベルギー、カナダなど全フランス語圏に拡大できるはずだと指摘する。

 社会心理学者で「The psychology of lying(嘘の心理学)」の著者であるClaudine Biland氏によると、フランスにおけるこのようなサイトの出現は、米国化が進行した兆しだと考えられるという。

 「ラテン諸国に比べ、米国ではうそに絡んだ罪の意識がずっと強い。アリバイ提供会社を利用することで、第3者に責任を転嫁できる。少し道理は外れるが」と同氏は分析。フランスではこの種のサービスに対する需要は比較的弱いと解説する。

 一方、米イリノイ(Illinois)州に拠点を置く「アリバイネットワーク(Alibi Network)」の管理者マイク・デマルコ(Mike DeMarco)氏の見方は異なる。

 デマルコ氏は具体的な事例を幾つか紹介してくれた。例えばある男性には週末に釣り旅行に行ったアリバイとして、偽の航空券、偽の釣り用具、本物の魚(といっても釣りざおで釣り上げたものではなかったが)を提供。依頼人はこのアリバイを利用して、浮気相手と楽しい週末を過ごしたという。

 同氏に言わせると、このようなアリバイを求める動機の一部には、妻や夫の感情を傷つけたくないという配慮があるという。もっとも実際問題としては、古い歌にあるように「妻をつなぎとめておく方が安上がり」というのが理由だろうと同氏は見ている。(c)AFP/Pascale Mollard-Chenebenoit