【8月30日 AFP】ゴーストタウンに子どもだけを取り残し、その暮らしぶりを収録したリアリティーショー『キッド・ネイション(Kid Nation)』が批判を受け、放送中止を求める声が殺到している。

 物議を醸している『キッド・ネイション』は、大人の監視なしで子どもだけでゴーストタウンで暮らしていくという内容のリアリティーショー(演技や台本なしで出演者の行動を追う番組)で、米テレビ局CBSで9月19日に放映が予定されている。

 『キッド・ネイション』は、飛行機が墜落して無人島にとり残された子どもたちが生き残るためにもがき苦しむ様子を描いたウィリアム・ゴールディング(William Golding)原作の古典小説『蠅の王(Lord of the Flies)』と比較されている。

 番組収録は4月から5月にかけて行われた。8-15歳の子どもたち40人が、親元を40日間離れて暮らし、「親たちが失敗したことに成功する」ことを目指すという内容だ。

 しかし、次々に明らかになった番組内容が法的、倫理的問題で物議を醸したばかりか、番組を予定通りに放映すべきかどうかについても議論が巻き起こっている。

 番組が収録されたニューメキシコ(New Mexico)州当局は、子どもたちが番組収録のために1日14時間の労働を強いられていたとの申し立てを受け、労働法違反がなかったかについて調査中だとされている。番組に出演した少女の親は、娘がキッチンでの事故で顔にやけどを負ったと申し立てた。このほか、ほかの子どもが漂白剤を誤飲したとも報道されている。

 番組制作責任者のトム・フォアマン(Tom Forman)氏は、子どもたちの扱いに問題はなかったと主張する。「子どもたちは信頼できる人物のもとで、制作者らの十分な保護を受け、学校やキャンプにも引けを取らない水準の安全体制のもとにあった」と語った。さらに、出演した子どもたちは働いていたのではなく参加していたのであって、自分で参加時間を決めていたと主張した。

 制作者側はまた、収録中は心理学者、野生生物学者、医師らによるチームが常に待機していたと説明した。しかし、番組を批判する人々は納得できない様子だ。

 エンターテイメント情報誌、『ハリウッド・リポーター(Hollywood Reporter)』のBarry Garron氏は「すべて行き過ぎだ。良かれと思った企画だろうが、考えが足りない。CBSは企画について謝罪し、『キッズ・ネイション』の放送を中止すべきだ」と指摘する。

 俳優らが組織する労働組合も、番組に対する懸念を表明している。

 映画俳優協会(Screen Actors GuildSAG)は「出演した子どもの扱いや子どもからの搾取に関する報道に衝撃を受け、心を痛めている。子どもたちがSAGを通じて契約していたら、年齢に応じた1日の最高労働時間を定めるなど、保護を得られただろう」と抗議した。一方、米国テレビ・ラジオ芸術家連盟(American Federation of Television and Radio ArtistsAFTRA)は、出演した子どもの労働状況について調査を進めていると発表した。

 報道によると、子どもたちにはそれぞれ5000ドル(約58万円)ずつが支給されたほか、難しい課題をこなした子どもにはさらに報奨金2000ドル(約23万円)が支払われたという。インタビューに応じた数人の親たちは、番組の収録が終わるまで報奨金の存在は知らされていなかったと主張している。

 制作側を免責する契約書に親がサインしたことについても批判が集まっている。契約書には番組収録中に「深刻なけがや疾患、おぼれや墜落などによる死亡、家畜との遭遇、性病やHIVウイルスの伝染、妊娠などの危険にさらされるおそれがある」といった条項が含まれていた。

 米CNNの取材を受けたある母親は、「CBSに説明を求めたら、サマーキャンプとまったく同じだとの説明を受けた。娘の経験はそれを裏付けている。CBSがしたことで娘が危険にさらされることは何もなかった。わたしも娘をいかなる危険にもさらしたとは思っていないし、もし危険だったら出演させていない」と釈明した。

 米国シラキュース大学(Syracuse University)のロバート・トンプソン(Robert Thompson)教授(ポップカルチャー研究)は、番組の安全性をめぐる騒動は、おそらくより重要な事実から目をそらすための煙幕だと指摘する。

 同教授はAFPに対し、「彼らは大人の監視はなかったとしているが、実際にはカメラの脇には大人が控えていた。本当の問題は、番組が安全であろうとも、番組が単なるサマーキャンプに関するリアリティーショーであろうとも、有名になることが幼い子どもに与える影響を分かっていながら、8歳の子どもをネットワーク・放映される番組に出演させる人々だ。このような類の番組に子どもを出演させる前に、親は慎重に検討するべきだろう」と語った。(c)AFP/Rob Woollard