写真は14日、セラー内で撮影に応じるBiyelaさん。(c)AFP/GIANLUIGI GUERCIA
【ケープタウン/南アフリカ 20日 AFP】貧しい地方の村に生まれたNtsiki Biyelaさん(28)は、黒人女性として南アフリカで初めて、ひとかどのワイン生産者となった。だが、もともと質素な生活に慣れていた彼女にとって、ほかの人たちの模範役を務めるのは、容易ではないようだ。
西ケープ(Western Cape)州のステレカヤ(Stellekaya)ワイナリー内にある自身のオフィスで取材に応じたBiyelaさんは、「プレッシャーがものすごくて」と語った。
「わたしには責任がある。わたしにあこがれている人たちがいて、その人たちの未来を台無しにしたくはない」
とはいえ、雑然としたオフィスに訪問客を案内する様子からは自信がにじみ出ている。記者にワインセラーを案内しながら、丹念に、そして情熱的に、ワインの製造工程や自身の職業について話した。
■ワイン製造者資格を持つ黒人女性の第1期
Biyelaさんは、ワイン製造者の資格を得た黒人女性の1期生。単独でワインセラー管理責任者を務める黒人女性としては、正真正銘の先駆者だ。南アフリカ航空(South African Airways)の奨学生として、ブドウ栽培とワイン醸造学(エノロジー)をステレンブーシュ大学(Stellenbosch University)で学び、2004年からステレカヤ・ワイナリーで働きはじめた。そして、今では4つの受賞ワインを製造するほどの腕になった。
しかし、ワイン生産者の道をはっきりと将来の進路として考えていたわけではなく、むしろ好奇心が勝っていたという。
「初めてワインを飲んだのは大学1年の時。ひどい経験だった。でも、次第にそのよさがわかってきて、今では赤ワインが大好物」
Biyelaさんは、自分が奨学金を受けられた背景には、かつてのアパルトヘイト(人種隔離)政策で虐げられていた人々を起用する必要があるとの認識がワイン業界にあったからだと考えている。
「彼らには『色』が必要、色の混合がね」と冗談をとばした。
■ワイン業界への黒人参画は低迷
ワイン業界団体がまとめた統計によると、南アフリカはワイン、ブランデー、ブドウジュースの生産では世界第8位(2004年)だが、ワイン農園を所有、経営または管理している黒人人口は1%にも満たない。
また最近の調査では、ワイン用ブドウ生産者のうち、生産上の戦略的、政治的方針を決定する過程に従業員が参加していると答えたのは13%で、政府が推進する「ブラック・エコノミック・エンパワーメント(BEE)政策」(黒人の経済的権利拡大政策)の持ち株制度を実施している生産者は、5.51%にとどまった。さらに、労働者への利潤分配制度(利益配当)を導入している生産者は、わずか5%強にすぎない。
報告書によれば、60%がBEEに参加したいと答えているが、その多くは具体的に何をすればよいのかわからないか、土地を失う結果になることを恐れているという。
■未開発の消費者層に秘められた新たな可能性
南アフリカ・ワイン業界トラスト(SA Wine Industry Trust)のCEO、Charles Erasmus氏は、道徳的、政治的、経済的にも、黒人の権利拡大を実現する責務があると考えている。
「経営上も、それが賢明な方針であることを業界全体が理解する必要がある。BEEの本質は、ただ土地を分配するものではない。他の人々も配当を得られるくらいまで、経済のパイを大きくするということだ。経営者が従業員に株式保有を認めれば、最終的には全員が利益を得ることになるはずだ」
当事者意識を持った従業員は、より仕事に積極的になる傾向があるとErasmus氏。政府、業界、金融機関は、アパルトヘイト政策で苦しめられた立場の人々を助け、土地と技術を得るための経済的支援計画を共同で行うべきだと付け加えた。
「新人の黒人ワイン生産者の多くが、生産を始めて5、6年が過ぎた今になって、さまざまな問題に直面している。最大の原因は、営業管理の失敗によるものだ」
また、ワインに関してはほとんど未開発のままの黒人消費者層が、新たなマーケットとなる大きな可能性を秘めているとも語った。
ワインが大好きになったBiyelaさんだが、家族はまだ味を分かってくれないという。
「実家を訪ねるときにはワインを持って行くが、家族はわたしを喜ばせるためだけに飲んでみせてくれている」
だが一方で、ワインのすばらしさを教えることに夢中になってもいる。
「味覚は訓練できる。わたしも、自分の舌を訓練した!」
写真は14日、セラー内で撮影に応じるBiyelaさん。(c)AFP/GIANLUIGI GUERCIA