【8月17日 AFP】ミャンマー中部のマグウェ(Magway)地域の村に住む「ビッグ・ゾー」は、近所の人たちが見上げるほどに背が高くなった10代の成長期のころから、自分が他の人とは違うことを知っていた。

 男性の平均身長が168センチのミャンマーで、それを大幅に上回る身長233センチのウィン・ゾー・ウー(Win Zaw Oo)さん(36)は、国内で最も背の高い男性とみられている。今年になって国営メディアで報じられたことがきっかけで他のメディアや医療関係者の注目を集めたことから、この並外れた長身の原因となっている難病「先端巨大症」の治療を、ようやく国外で受けられることになった。

 シンガポールに向けて15日にミャンマーを出発したウィン・ゾー・ウーさんは、成長ホルモンを過剰に分泌させている脳下垂体の腺腫瘍を取り除く手術を受ける予定だ。この手術は、医療技術が遅れているミャンマーでは受けることができない。軍事政権による支配が数十年に及んだ同国では、予算の大半が軍事費に回され、医療機関は慢性的な資金不足に悩まされてきた。

 ウィン・ゾー・ウーさんはAFPの取材に対し、今後の医療費について不安を抱えていると述べながらも、「今までおもちゃの飛行機しかみたことがなかった。空を飛ぶのは少し心配だが、健康のためなら行くしかない」と話した。

■日常生活は苦労の連続

 これまでの暮らしは、その高すぎる身長が原因となり、困難の連続だった。

 今は両親と3人の姉妹と共に、ピーナッツやゴマの栽培でどうにか生計を立てている。家族は、特別に長い丈の「ロンジー」(ミャンマーの男女兼用の巻きスカート)を作ることはできても、オーダーメードの靴を購入する経済的な余裕はとてもなかったため、子供のころからほとんど裸足で過ごしてきた。

 病気のために非常に疲れやすく、通常の就業はできない。だが、はしご要らずの長身を利用して、村で行われる建設工事は手伝うことができるという。

■初めての国外で念願の手術へ

 ミャンマーの医師らによると、ウィン・ゾー・ウーさんの成長はすでにとまっているようだが、治療を受けなければいずれ健康問題を引き起こす可能性がある。医師たちの分を含む旅費は、ミャンマーとシンガポールの個人などからの寄付によって賄われた。

 シンガポールに同行する医療チームのミャチュー・ミン(Myatthu Mynn)医師によると、先端巨大症の治療では通常、脳下垂体の手術を行うために鼻の穴や口内に入れた切り口を使う必要があるが、ミャンマーの病院にはそのための専門技術がない。

 2011年に発足し、民主化を進めている現政権だが、医療体制の整備はひどく立ち後れたままだ。公式発表によると、ミャンマー政府が2011~12年度予算のうち、医療制度に充当した割合は約1%のみ。翌2012~13年度でも、3%に増加しただけだ。

■非常に珍しい先端巨大症

 先端巨大症は非常に珍しい病気で、成長期に発症すれば「巨人症」を引き起こす。ミャンマーでの発症例についての正確なデータはないが、下垂体疾患の人たちを支援する英国の慈善団体「ピチュイタリー・ファウンデーション(Pituitary Foundation)」によると、先端巨大症と診断される患者は毎年、人口100万人当たりわずか4~6人。発症すると糖尿病や高血圧、心疾患を引き起こす恐れがあり、平均寿命の低下も特徴とされる。

 医師らによると、ミャンマーで非常に身長の高い人として記録が残っているのは、1970年代に死亡したとされる女性が1人いる程度。この女性は合併症により失明し、中部地域で見せ物にされていたことが分かっている。

 本当は姉妹と共に事業を起こしたいと語るウィン・ゾー・ウーさんだが、家族の生活を支えるため、映画への出演も検討しているという。だが、その将来にはこの病気が暗い影を落としている。「他の人たちのように素早く動くことができないし、それで落ち込むこともある」という。結婚して自分の家庭を築くことには望みを持っていないというが、治療に対する期待感はのぞかせた。

「外見が変わることはなくても、治療が終われば生活に十分なだけの成果が得られるだろう」

(c)AFP/Shwe Yinn Mar Oo