【5月10日 AFP】何かを探索するという行為が脳の形成を促進し、冒険が各自の個性を作るとする研究結果を9日、ドイツのチームが米科学誌サイエンス(Science)に発表した。研究チームでは、この発見が精神疾患の治療に新たな道を開くかもしれないと期待している。

 チームは一卵性双生児たちが、たとえ同じ環境で育ったとしても、互いに完全には一致しないのは何故かを突き止めようとし、遺伝学的にはまったく同一のマウス40匹を使った実験を行った。

 マウスたちは、上下5層に複雑に分かれたかごに入れられた。かごの中には各階間の滑り台や「足場」や寝床、さらにたくさんの玩具や木製の植木鉢などが設置された。動いて探索できる空間は約5平方メートルとした。
 
 実験を行ったドイツ神経変性疾患センター(German Center for Neurodegenerative Diseases)のゲルト・ケンペルマン(Gerd Kempermann)研究主任によれば「(かごの中の)環境が非常に豊かで、それぞれのマウスが個々の体験を積み重ねた」という。マウスたちは遺伝学的にはまったく同じで、置かれた環境も同じだったが、行動レベルには差異がみられ、いろいろ探索するマウスもいたが、そうでないものもいた。

■探索するマウスの脳発達は活発

 チームは電磁信号を発信する特殊マイクロチップをマウスたちに装着し、マウスがどれだけ動き回るかを追跡し、探索行動を数値化した。ケンペルマン氏によれば「時間が経つにつれ、マウスたちの体験と行動の領域にはどんどん差がついていった」という。3か月のうちに各々のマウスはまったく違う個性を発達させた。

 さらに研究チームは、探索行動の激しいマウスの脳のほうが、消極的なマウスよりも、学習と記憶をつかさどる海馬で新しい神経細胞(ニューロン)をより多く形成している(ニューロン新生)ことを発見した。

 またこれよりも環境が貧しいかごに入れられた対照群のマウスでは、環境が豊かなかごのマウスほど脳の発達はみられなかった。

ケンペルマン氏らのチームは、個人体験とそれに続く行動が個性化にいかに関与しているかが示されたのは初めてであり、遺伝的特徴だけでも、環境だけでもこの個人的成長は起こりえないと述べている。(c)AFP