【4月24日 AFP】食中毒を引き起こす可能性のあるリステリア菌を膵臓(すいぞう)がん細胞に感染させ、腫瘍を殺傷する薬剤をがん細胞に届ける実験的治療法の有効性が動物実験で確認されたとの論文を、米国の研究チームが22日、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表した。この治療法が動物実験で検証されたのは世界で初めてという。

 膵臓がんは体の至る所に迅速に拡散する傾向があり、特に致死率が高い。がんが膵臓以外に転移した状態になって初めて見つかるケースが多いからだ。未治療患者は通常、3~6か月以内に死亡し、5年生存率は4%にすぎない。

 この治療法が人間に有効かどうかはまだ明らかになっていないが、論文を発表した米イェシーバー大学(Yeshiva University)傘下のアルバート・アインシュタイン医科大(Albert Einstein College of Medicine)の研究チームによると、この治療法で「転移」として知られるがんの拡散を停止させることが可能と分かったという。

 論文主執筆者の1人、同医科大のクラウディア・グレイブカンプ(Claudia Gravekamp)准教授(微生物学・免疫学)は「現時点では、マウスでの転移の減少に非常に効果的な治療法が得られたと言える」と話す。

 自然界のリステリア菌に感染すると、食中毒を起こす恐れがある。研究チームは、毒性を弱めたリステリア菌にがんの治療に広く使用されている放射性同位体(ラジオアイソトープ)を付着させ、これを正常細胞以外のがん細胞に感染させた。

 その結果、膵臓がんにかかったマウスで、この方法で治療したマウスの90%は、3週間後にもがんが拡がった兆候は見られなかった。実験は、膵臓がんの治療を施さなかった対照マウスが死に始めた21日目で中止した。

 ほとんどのケースでがんの拡散を停止させ、マウスに有害な副作用を及ぼすこともなかったとみられるが、この治療法延命が可能かを確認するには、さらなる研究が必要になる。

 グレイブカンプ准教授は「さらに改良が進めば、われわれの治療法は転移性膵臓がんの治療に新たな時代を開く可能性がある」と述べている。(c)AFP