【10月11日 AFP】米国で、汚染された医薬品が原因とみられる真菌性髄膜炎による死者が相次いでいる問題で、医薬品の調剤業者に対する規制の厳格化を求める声が高まっている。

 10日時点で、真菌性髄膜炎による死者数は少なくとも12人に達し、発症患者は138人に増加した。汚染された腰痛治療用のステロイド剤は全米23州の医療機関に流通し、最大で1万3000人に処方された恐れがあるという。

 この問題に批判的な人々は、医薬品の製造業者が自分たちを「調剤業者」として届け出ることによって、当局による厳しい監視やコストを回避していると指摘する。患者に合わせた薬剤の調合をする調剤業者には、製薬会社よりも緩い規制が設けられている。

 2005年から07年まで米食品医薬品局(Food and Drug AdministrationFDA)の主任顧問を務めた弁護士のシェルドン・ブラッドショー(Sheldon Bradshaw)氏は、「調剤薬の服用はロシアンルーレットと同じだ」と警告する。「調剤業者は医薬品の汚染を防ぐために定められている製造工程に沿う必要がない。医薬品の安全性を証明するための臨床試験に数億(ドル)もの費用を掛ける必要もない」

 問題は考えられているよりも広がっている恐れもある。FDAが認可を出す医薬品の製造業者とは違い、調剤薬局には副作用や健康被害を届け出る義務はないからだ。さらに、医師の多くは自分たちが処方する医薬品が、FDAの操業許可を得た工場で製造されたものではないことに気付いていないという。

 調剤業者に対する規制が緩いのは、特定の患者に合わせて薬品の調合を行う薬剤師の伝統的役割を、臨床試験などのわずらわしい手続きを踏まずに可能にするためだ。

 だがボストン大学法科大学院(Boston University School of Law)のケビン・アウターソン(Kevin Outterson)教授(医療法)は、これが「法のグレーエリア」を作り出し、調剤薬の大規模な生産を行う業者がここ数十年で増えていると指摘している。その結果、医薬品の規制に関するFDAの影響力は米国内の大規模な調剤業者よりも、むしろ中国の製薬会社に対して強く及んでいるのが現状という。

 多数の汚染ステロイド剤を販売した調剤業者、ニューイングランド・コンパウンディング・センター(New England Compounding CenterNECC)は、過去10年間で少なくとも2回にわたりマサチューセッツ(Massachusetts)州当局とFDAによる審査を受けている。また同社は専門委員会による認定を受けていない。

 ステロイド剤の汚染がどういった経緯で起きたのか、また問題発覚がなぜこれほどまで遅れたのかはまだはっきりしていないが、NECCは市場に流通していた自社製品全てのリコールを行い、事業を停止した。

 だが、調剤業界の関係者は「NECCが規則違反をしていたことは明らか」と話している。国際調剤薬剤師アカデミー(International Academy of Compounding Pharmacists)のダグマー・クリモ(Dagmar Climo)氏は、調剤業者に対する「適切な規制は存在する」とした上で、規制がうまく機能すればこういった類の問題は起こらないはずだと述べた。「今回の問題は製薬会社としての実態を持っていた組織を見落としてしまったことが原因です」

(c)AFP/Mira Oberman