【7月21日 AFP】インドのアニル・カナデさんは最近、口の中に、命にかかわるがんが見つかった。インドで人気のかみたばこ「グトゥカー」の常用で生じたものだ。

 インドでは近年、多くの工場労働者や若者が、タバコとビンロウジなどを混ぜて安価に大量生産されるグトゥカーのとりこになっており、複数の州政府がこの嗜好品の禁止に乗り出している。

 頬がはれ上がったカナデさんは、手術を受けるために訪れたムンバイ(Mumbai)で、AFPの取材に「グトゥカーでハイになった。気分が良かった」と語った。2人の子どもを持つカナデさんは、まだ35歳だ。

 カナデさんの故郷マハラシュトラ(Maharashtra)州では、子どもたちは11、12歳のころからグトゥカーをかみ始める。インド全体では推定500万人の子どもが、グトゥカーを含むたばこ製品に依存しているとされる。中でもグトゥカーは1個わずか1ルピー(約1円)だ。

「政府が禁止できるかどうかは分からないが、禁止すべきだ」とカナデさんに付き添う兄弟は語った。

■各州政府に禁止の動き

 米国を拠点とする「たばこを必要としない子どもたちキャンペーン(Campaign for Tobacco-Free Kids)」によるとインドでは毎年、世界最多の7万5000~8万人が新たに口腔がんにかかっている。

 今年に入ってマディヤプラデシュ(Madhya Pradesh)、ケララ(Kerala)、ビハール(Bihar)の3州がグトゥカーを禁止し、すでに禁止していたゴア(Goa)州に続いた。さらにマハラシュトラ州が11日、グトゥカーを禁止する今年4番目の州になった。インドで最も人口の多いウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)州など複数の州でも同様の措置が検討されている。

 障害となっているのは、街角に法を行き届かせる困難さだけでなく、巨大なグトゥカー業界による強力なロビイング活動だ。業界団体は、グトゥカーの禁止は憲法に違反すると批判している。

■若者に広がるグトゥカー

 ムンバイでグトゥカー撲滅運動を率いる頭頸部がん専門の外科医パンカジ・チャトルベディ(Pankaj Chaturvedi)氏によると、口腔がんの患者の半数が診断後1年以内に死亡し、残りの半数も重度の障害を負う。これまでに診断した最も若い患者は13歳で、進行性の口腔がんで死亡した。

「グトゥカーは最貧困層と最富裕層の両方を魅了している。また若者たち全体をつかまえるために非常に戦略的な広告をうっている」と同医師は語る。

 大半の州でグトゥカーが依然合法な中、マハラシュトラ州規制当局は、商品の流通を封じ込めようと取り組みを始めた。ウッタルプラデシュ州では、規制当局がグトゥカー工場8か所を閉鎖し、通報に基づいて1000万ルピー(約1400万円)相当の在庫を押収した。

「子どもたちがグトゥカーを入手できないようになれば、未来はもっと明るくなる」とチャトルベディ医師は語った。(c)AFP/Rachel O'Brien