【7月20日 AFP】キャット・ポーズ(Cat Pause)さんは誇りを持って自らを「でぶ(fat)」と表現する。「丸っこい(curvy)」「ぽっちゃり(chunky)」「まるまるとした(chubby)」といった婉曲表現なら甘受するが、「体重過多(overweight)」や「肥満(obese)」など、ある種の価値観を伴うレッテルには難色を示す。

 ポーズさんは米国生まれの研究者で、新興研究分野「ファットスタディーズ(fat studies)」の草分け的存在だ。12~13日、ニュージーランドのマッセー大学(Massey University)ウェリントン(Wellington)校で史上初の「ファットスタディーズ学会」を開催した。

 ファットスタディーズは歴史学や英語学、政治科学などと同じれっきとした学問分野だと、ポーズさんは説明する。太った人を社会がどう見ているかを分析し、ウエスト周りのぜい肉は不健康の証だと決めてかかる風潮に異議を唱えるものだという。

 学会には米国やオーストラリアからも研究者が集まり、例えば「『肥満大流行』時代におけるでぶ嫌悪と左派(Fat hatred and the Left in the time of 'the obesity epidemic')」だとか、「肥満の人を軽んじる診断の役割(The role of diagnosis in marginalising corpulence)」などと題された論文をめぐって議論を交わした。

■「でぶプライド」掲げて運動

 「私たち(でぶ)がやたらと恐れられ嫌われる理由の1つは、一般的に外見には体の状態や生活ぶり透けて見えると考えられているからです」とポーズさん。「だから、私のようなでぶのボディーラインを見たとき、不健康で病気の体だと人々は思うのです。運動なんてしたこともなく、ジャンクフードばかり食べているのに違いない、と」

 だが実際のところは、他の人よりも少し大柄な人がいるだけだ、とポーズさんは指摘する。ファットスタディーズはこの事実を社会に認めさせ、太った人に審判を下して痩せるよう圧力をかける風潮をなくす必要を強く訴える学問なのだ。

 その初期目標の1つは、同性愛者たちが差別語として使われていた「クィア(queer)」という単語を再定義したように、「でぶ(fat)」という単語の意味を侮蔑だけではないものに定義し直すことだ。既に「でぶ活動家(fat activist)」を名乗る人々が「でぶプライド(fat pride)」を説き、「ダイエット業界からの圧力」に立ち向かっている。

 ポーズさんは「体重過多」という表現に嫌悪を感じるが、それはこの単語が「本来あるべき体重を超過している」ことを示唆しているからだ。「肥満」も同じように、「でぶを病気扱いするために医学界が使っている単語」だとポーズさんは一蹴する。

■「ダイエット業界は不安を食い物にしている」

 マッセー大学講師のアンドリュー・ディクソン(Andrew Dickson)さんは、太った人たちの不安を食い物にして成長してきたと、ダイエット業界を批判する。「ダイエットを試みた人の95%は失敗する。つまり、ダイエット業界など本当は存在しないのです。彼らがやっているのは、体重に関する不安を解消する商品の販売でしかありません」

 そうやってあおられる不安感はもはや「身の毛もよだつ強迫観念」と化している、とディクソンさん。自身、かつて体重を130キロから86キロまで「落とさなければならないストレス」に苦しんだという。現在の体重は100キロで、いわゆる標準体重グラフでは肥満に分類されるものの、健康だと自負している。毎週およそ60キロメートルほどのランニングを行う、自称「でぶアスリート(fat athlete)」だ。

 「速くないからきっと絶対に優勝はできませんが、ウサイン・ボルト(Usain Bolt)みたいになることが全てではないでしょう」(ディクソンさん)

 オークランド工科大学(Auckland University of Technology)の栄養学者エレーン・ラッシュ(Elaine Rush)氏は最近、テレビ・ニュージーランド(TVNZ)の取材に対し「身長体重比だけでなく、脂肪が内臓のどこに付いているのかが重要だ」と述べている。

■中傷は「毎日」、ユーモア忘れず運動

 「でぶ問題ムーブメント」は真面目な問題を提起する一方で、自虐的なユーモアも忘れていない。

 ディクソンさんは体重の多いアスリート向けの「クライズデール級」を新設するようランニングクラブに呼びかける活動に忙しく、ポーズさんの体重計の目盛には数字の代わりに「ホット」「パーフェクト」「セクシー」という単語が並んでいる。

 豪メルボルン(Melbourne)では、太った女性たちによるシンクロナイズドスイミングのチーム「アクアポークオ(Aquaporko)」が設立された。それを見たら「笑い出すか泣き出すか、いずれにしろ盛り上がるのは間違いなしですよ」とポーズさん。

 豪「でぶ活動家」のキャス・リードさんは「ファット・ヘファランプ(Fat Heffalump)」と題したブログを持っているが、日々多くの中傷に遭うという。「通りすがりの見ず知らずの人に、毎日のように汚い言葉を投げ付けられます。いかにもそういう罵倒をしそうな若者たちからではありません。きちんとスーツを着ていたり、私と同じ40代くらいの女性など、見た目は立派に見える人たちばかりです」

 ポーズさんは、人種差別や性差別を禁止する法律はあるが、太った人に対する差別はとてもありふれている上、政府の反肥満キャンペーンによって差別が助長されていると指摘。「多くの国で性別や人種による差別は法律で禁じられ、性的指向もどんどん保護されるようになっている。それなのに、体重による差別は違法ではないんです。ぜひ、体重も法の保護対象に入れて欲しいですね」と訴えている。(c)AFP/Neil Sands