【5月25日 AFP】先進国の中でも男性の喫煙率が高い韓国で、ようやく官民が禁煙に向けた取り組みに本腰を入れ始めた。

 企業は昇進への影響をちらつかせて従業員に禁煙を迫り、保健福祉省はたばこパッケージの警告メッセージの拡大を決め、ソウル(Seoul)市は市内の20%を禁煙地区とする計画だ。

 軍も例外ではない。陸軍では徴兵・訓練兵らに喫煙習慣を断ち切るためのアドバイスを受けさせる。一方、歴代政府や現政権は、喫煙者票を失うことを恐れて、たばこ税の引き上げには手をつけてこなかった。

■禁煙対策を導入する大企業

 最も直近となる2009年の経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、韓国男性の喫煙率は44.3%で、OECD加盟国の平均男性喫煙率の26.5%を大きく上回る。一方、女性の喫煙をタブー視する社会慣習から、韓国女性の喫煙率は低い。

 従業員数が国内最大規模のサムスン電子(Samsung Electronics)は、大企業の中でも率先して従業員の禁煙を進めている。

 約3万5000人が働く同社のデバイスソリューションズ(DS)部門は、従業員の「禁煙宣言」を含む自発参加型の禁煙プログラムが「歓迎されている」としている。

 DS部門広報は、従業員は同社の「最も貴重な資産」であり、その健康と幸福は最優先事項だと説明。禁煙プログラムはこうした信念の延長線上にあるものだという。さらに、サムスン電子では全社をあげて反喫煙方針の強化を検討中で、喫煙者は昇進など何らかの形で社からの影響が及ぶ見通しだ。

 多方面にビジネスを展開する熊津(ウンジン)グループ(Woongjin Group)も、2月から喫煙状況も昇進時の考慮に入れている。新入社員は全員、禁煙誓約書への署名が義務づけられている。

 同社広報によれば、このことは昇進プロセスに入る前に通告しており、これまでのところ昇進できなかった社員からの苦情はないという。さらに熊津では、抜き打ちで従業員の髪の毛や尿チェックも行っている。

 こうした禁煙政策を導入している企業で働く31歳の社員は、強制的なやり方に「最初は悪印象を持った」が、禁煙規則に従っているうちに「これは自分自身にとって良いことだ」と思うようになり、最近になってたばこを完全に止めたという。

■官も積極的に禁煙を促進

 オフィスの外でも禁煙に向けた動きは進む。ソウル市当局は、市内の広場や公園、そしてバス停や学校の近くでの喫煙を禁止した。違反者には10万ウォン(約6800円)の罰金が科せられる。

 さらにソウル市では、2014年までに市内の21%を禁煙区域にする計画だ。一部の指定場所を除いて公共の場所を全面禁煙にすることも検討している。

 保健福祉省は、たばこパッケージに記載する警告メッセージの大きさを、現行の箱の表面の30%から50%に拡大する。

■喫煙者からは「人権侵害」と反発も

 一方、政治家たちは依然としてたばこ税の引き上げには消極的だ。韓国のたばこ価格は経済協力開発機構(OECD)加盟国のなかで最も低く、例えばマルボロ(Marlboro)1箱の値段はわずか2700ウォン(約180円)だ。

 保健福祉省高官も韓国でのたばこ価格が安価であることを認めるが、たばこ税を上げるには「社会的な合意が必要」だという。

 また喫煙者から最近の韓国での禁煙熱は行き過ぎだという声も上がっている。

「抜き打ち検査を実施したり、常に従業員を(禁煙の)圧力にさらして仕事が終わった後まで禁煙を強要したりするのは人権侵害にあたる」と、韓国の喫煙者団体、Korea Smokers Associationのホン・ソンヨン代表は憤る。

 ホン代表は「喫煙者が野蛮人であるかのような目で見るのは間違っている。喫煙は合法的な行為であり、われわれは正当な額の税金を支払っている」と主張し、ソウル市に公共の場に喫煙所を設けるよう求めている。(c)AFP/Nam You-Sun