【5月24日 AFP】心臓病患者の皮膚細胞から、損傷した心筋を修復する細胞を作ることに初めて成功したと、イスラエルの研究チームが23日、欧州心臓病学会(European Society of Cardiology)の医学誌「ヨーロピアン・ハート・ジャーナル(European Heart Journal)」(オンライン版)に発表した。

 イスラエル・ハイファ(Haifa)のテクニオン・イスラエル工科大学(Technion-Israel Institute of Technology)とラムバム医療センター(Rambam Medical Center)のリオル・ゲプスタイン(Lior Gepstein)教授(心臓学)の研究チームは、心臓疾患のある51歳と61歳の男性2人から皮膚細胞を採取。「Sox2」「Klf4」「Oct4」という3つの遺伝子を組み込み、バルプロ酸を用いてヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞、hiPSC)へと変化させた。

 このヒトiPS細胞を現存の心組織と共に培養し、健康なラットの心臓へと移植したところ、拒絶反応はなく移植に成功したという。

 ヒトiPS細胞は、患者から採取した細胞の核に遺伝子を導入して別の細胞へ変化させる技術。患者自身の細胞を用いるため、拒絶反応を引き起こすことなく移植ができる。既にこれまでの研究で、若く健康な人の細胞からヒトiPS細胞を作り出し心臓細胞へと変化させられることは分かっていたが、高齢者や疾患を抱えた患者の細胞からの作成に成功した例はなかった。また、ヒトiPS細胞から作られた心臓細胞が患者の心組織に移植された成功例もないという。

 ゲプスタイン教授は声明で、「われわれの研究の新しく刺激的なところは、重い心臓疾患のある高齢患者の皮膚細胞を、培養皿の上で若く健康な心臓細胞へと変化させることが可能だと示せた点だ」とコメント。作り出された心臓細胞は「患者が誕生したときと同じ段階にある」と説明している。

 人間で臨床試験を行えるようになるまではあと10年ほどかかるというが、研究チームでは、病気の心臓組織を新しい細胞に置き換える新たな治療法の確立に向けて大きく前進したと評価している。(c)AFP

【関連記事】
損傷した心臓、iPS細胞による修復に成功 米病院
老化した細胞の「若返り」に成功、再生医療に新たな光