【1月31日 AFP】小児の肺炎や髄膜炎を起こす肺炎レンサ球菌が、他の菌のゲノムの一部を取り込んで進化し、ワクチンの効果が出ないようになっているとの研究が、29日の英科学誌「ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)」に掲載された。

 素早く遺伝子的なおとりを借りて自らの姿をごまかす致死性の病原体に、医療が追いつくのがいかに困難かを示す研究成果だ。肺炎レンサ球菌による子供の死者数は、世界で年間100万人を超えているとされる。

 肺炎球菌感染症のワクチンは、菌の細胞の外壁にある多糖体を認識するよう設計されている。肺炎球菌の「血清型」は90種近くあるが、それぞれ型が異なる多糖体の表面を持っている。

 米国で2000年に導入された7種の血清型を対象にしたワクチンは、当初は高い効果を示した。子どもから成人への感染も予防するこのワクチンは英国でも採用された。

■外見を変えてワクチンから逃れる

 だが、オックスフォード大学(University of Oxford)のロリー・ボーデン(Rory Bowden)氏率いる研究チームによると、時を経るにつれてこのワクチンの効果が弱まってきたという。

 感染症の拡散を分析する疫学と最新の遺伝子解析を使い、研究チームは、肺炎球菌が自分たちとよく似たバクテリアと遺伝子を取り替えることで、ワクチンによる探知を逃れていたことを突き止めた。

 驚くことに、取り替えられていた遺伝子の部分は、正確に細胞の外壁を作るのをつかさどる部分だった――まさにワクチンが標的としていた領域だ。言い換えるなら、このバクテリアはその病原性を損なわないまま、外側の見た目だけを変えたのだ。

「それぞれの肺炎球菌の株が、学校の制服を着た児童たちだと考えてみてください。もしも少年が街角の店で盗みをはたらけば、警察官―ワクチン―は制服から、その少年がどの学校の生徒なのかすぐにわかる」(ボーデン氏)

 しかし、少年がセーターを別の学校の友だちと取り替えていたら、警察官はどこを見て見分ければ分からなくなり、泥棒は逃げ延びてしまう。バクテリアもこれと同じだと、ボーデン氏は説明する。

 研究チームは、こういった「再結合」され、ワクチンに対する耐性がある血清型を複数発見した。そのうちの1つの型は、数年間かけて東から西に米国全体に広がっていたという。

■急速に耐性を獲得する恐れ

 また研究チームは、実験室の外で初めて、肺炎球菌が同時に複数のゲノムを取り替えることができることを発見した。

「これは特に懸念すべきだ。DNAの複数の部分が関係する再結合によって、重要な遺伝子領域を急速に同時進行で取り替えることが可能になる。つまり、抗生物質に対する耐性を急速に獲得できる可能性があるのだ」

 米国と英国で当初使われていた7種の血清を対象としていたワクチンは、現在は13種の血清を対象としたものに置き換えられた。だが科学者たちは、バクテリアが今後もどんどんと新しい形に変化し続けるだろうと警告している。(c)AFP