【11月3日 AFP】90歳以上の高齢者の老化した細胞を、胚(はい)性幹細胞(ES細胞)と区別のつかない「若返った幹細胞」に転換することに成功したとする研究結果が、1日の米医学誌「ジーンズ・アンド・ディベロップメント(Genes & Development)」に発表された。高齢者向けの再生医療に新たな道が開かれると研究者らは期待している。

 研究の主著者、仏モンペリエ大学(University of Montpellier)機能ゲノム学研究所のジャンマルク・ルメートル(Jean-Marc Lemaitre)研究員は、AFPの電話取材に「細胞再生の新たな実例だ。細胞の老化は、決して再プログラミングの障壁ではない」と語った。

 体内のあらゆる細胞に分化する可能性を持つES細胞は、病気にかかった臓器や体組織を実験室で培養した健康な細胞に置き換えられるとして長年注目されている一方、倫理面や技術面の問題を抱えている。

 2007年、特定の成人の細胞を特化する前の未熟な状態に戻せることが発見されると、患者自身の細胞を使って、まっさらな筋肉、心臓、脳細胞などを作り出す取り組みが活発化した。

 ただ、これまでのところ、いわゆる人工多能性幹細胞(iPS細胞)の通常の作製手法は、高齢者ではあまり、または全く機能しないことが分かっている。障壁となっているのは細胞の老化で、細胞内の特定のメカニズムが適切に機能しない状態まで劣化すると細胞死を引き起こす自然のプロセスだ。

 ルメートル氏の研究チームは、新たに2つの転写因子、NANOGとLIN28を追加するiPS細胞作製手法を開発。74歳~101歳の被験者で実験したところ、染色体の末端にあり年齢を重ねるとともに摩耗していくテロメアなど、細胞老化のいくつかの重要なマーカーを「リセット」することに成功した。遺伝子発現プロファイル、酸化ストレス、細胞内のミトコンドリアの代謝も再生したという。

 ルメートル氏は、老化した細胞を若返らせる新たなiPS細胞の作製手法が「細胞ベースの高齢者医療における最適な戦略になり得る」と述べている。(c)AFP/Marlowe Hood