【9月1日 AFP】気候変動で増加傾向にある洪水、干ばつ、巨大台風・ハリケーンなどは、居住環境を破壊するだけでなく、人の精神衛生にも打撃を与えるとの研究報告を、豪シドニー大学(University of Sydney)脳・精神研究所(Brain and Mind Institute)が今週発表した。

 オーストラリア国立大学(Australian National University)のトニー・マクマイケル(Tony McMichael)教授は「死別、うつ、ストレス障害、自殺など、気候変動の影響が地域社会における意欲や精神衛生に及ぼしつつある負担は大きい」と序文に記している。

 オーストラリアでは近年、「ビッグドライ(The Big Dry)」と称される深刻な干ばつ、大規模な山火事、洪水に見舞われ、多数の命が奪われた。多くの町や村、農場、企業に大きな被害が出、被害額は計数十億ドルに上る。

 しかし、これまで気候変動によって頻発する天気事象が、心理的にどのような影響を及ぼすのかについては、ほとんど研究されてこなかった。

 今回の研究では豪国内の統計を元に、極端な天気事象の後には薬物・アルコールへの依存、暴力、家庭崩壊、自殺が多くなり、特に農村部でその傾向が顕著だということが示されたと指摘。干ばつや熱波などで年間降水量が平年を300ミリ以上下回った年には、自傷行為や自殺率が8%も上昇したと報告している。

 また、特に子どもは災害前に強い不安を感じ、災害後に心的外傷を負いやすいという。シドニー大脳・精神研究所のイアン・ヒッキー(Ian Hickie)所長はその理由について「命を脅かされ、家族や地域社会の助けを得られない状況に直面するだけでなく、長期間にわたって脅威と共生しなければならないという現実が影響している」と説明している。

 ヒッキー所長はさらに、気候変動によって激化しつつある資源獲得競争や水争いが今後、さらに過激になると指摘。貧困国では災害の衝撃を受け止める能力が乏しいため、もっと深刻な精神的影響があると考えられると、論文は警告を発している。(c)AFP