【3月16日 AFP】東北地方太平洋沖地震に続く福島第1原発事故を受け、放射能による人体への悪影響を抑えるヨード剤の売れ行きが世界各地で急増しているが、専門家らはヨード剤の効果は限られているとし、焦って購入することに注意を呼び掛けている。

 米国では製薬各社のヨード剤(ヨウ化カリウム)の在庫が完全に切れ、特に太平洋を挟んで日本の対岸にあたる西海岸の薬局には、処方箋なしで購入できる薬を求める人が殺到した。ヨウ化カリウムのインターネット販売業NukePills.comでは「日本の原発危機のせいで注文が殺到し、出荷には1週間以上の遅れが見込まれている」と言う。もうひとつの米ヨード剤製造販売会社アンベックス(Anbex)でも在庫を切らし、次の入荷は4月中旬までないと言う。

■WHO「ヨード剤は妊婦には危険」
 
 インターネット競売のイーベイ(eBay)ではヨード剤14錠入り1パックが540ドル(約4万3000円)の高値をつけ、ツイッター(Twitter)などのオンライン・コミュニティでは放射能汚染に関する熱狂的な議論が行われる中、世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は冷静を呼び掛ける声明を発表した。

 ヨウ化カリウムは塩類の一種。甲状腺を飽和状態にして、原子炉事故で漏れる放射能に含まれる強い発がん物質、放射性ヨードが甲状腺に取り込まれるのを阻止する効果がある。

 しかし、WHOはツイッターで「ヨウ化カリウムは服用前に医師と相談すること。独断で服用してはならない」と警告を発した。WHOによると、ヨード剤は「放射能の解毒剤ではなく」、セシウムなどの放射性元素に対する防御効果もない。しかも、妊婦など特定の人にはかえって健康リスクとなると強調している。

 また通常、病院か処方箋をもって薬局へ行かなければヨード錠剤を入手できないアジア各国では、代わりにヨード入り消毒剤の売れ行きがやはり急増しているが、WHOはヨード液の飲用や塗布にも警告を発している。

■チェーンメールで消毒液が在庫切れ

 マレーシアの首都クアラルンプール( Kuala Lumpur)の薬剤師ポール・ホー(Paul Ho)氏は、「メールなどで、ヨード系の消毒液が放射能吸収を抑えるというメッセージが出回っている」と懸念する。そうした予防は全く効果がないが「ヨード系の消毒液も在庫が尽きている」と言う。

 同様のメールやテキストメッセージは、中国や香港、フィリピンでも流布しており、英BBCが番組で「首の甲状腺の辺りをヨード系消毒液で拭くと良い」と取り上げたといったデマまで流れている。BBCはそのような内容は取り上げていないと否定。「この噂が特にフィリピンでパニックを引き起こしている」とウェブサイトで説明している。
 
 マレーシアのリョウ・ティオンライ(Liow Tiong Lai)保健相も、「そうした消毒液を首の周りに塗る必要などない。国民はパニックになってはいけない。状況は保健省が非常に注意深く見守っている」と強調した。

 フィリピンのエンリケ・オナ(Enrique Ona)保健相も、焦ってヨード剤を入手する必要は全くないとする声明を出し、「フィリピン政府は今、その必要があるとは考えていない。必要であれば、どこを通じて入手すればよいか分かっているが、今のところ注文するつもりもない」と明言した。

■「メルトダウンの場合はアジア全域に一定の影響」

 中国の政府機関、香港天文台(Hong Kong Observatory)も中国領内の放射線レベルは「通常。香港にも放射能が影響するという噂には根拠がない」と強調している。

 香港中文大学(Chinese University of Hong Kong)の生物医学者スティーブン・ツィー(Stephen Tsui)氏は、日本国外の放射能汚染リスクは「低い」が、福島の原発が完全にメルトダウン(全炉心溶融)した場合には「アジアのすべての国に一定の影響はある」と述べている。(c)AFP/Amy Coopes