【3月11日 AFP】2009年と10年に世界で豚インフルエンザの大流行を引き起こしたH1N1型ウイルスが突然変異で感染力を強めるとともに、20世紀半ばに流行したインフルエンザも再び世界規模で大流行する恐れがあると、米国の科学者たちが警告を発している。

■H2N2ウイルスの再流行を警戒

 俗にアジア型と呼ばれるA型インフルエンザを引き起こすH2N2ウイルスは、1957年に初めて確認された。大規模な予防接種キャンペーンが実施されたにもかかわらず、世界で100万~400万人が死亡した。

 このウイルスは現在も鳥や豚の間でインフルエンザ感染を引き起こしているが、現在、50歳以上の人びとの多くはH2N2ウイルスへの免疫を持つことが、複数の研究で示されている。しかし、免疫を持たない若い世代はH2N2ウイルスへの耐性がないため、致死力の高いこのインフルエンザウイルスが再びヒトにも感染し、世界的な大流行が再来する恐れがあるというのだ。

 米国立衛生研究所(National Institutes of Health)のゲーリー・ノーベル(Gary Nobel)氏は、「H2N2ウイルスの脅威が迫りつつあり、再流行もありうる」と警告する。10日付けの英科学誌ネイチャー(Nature)で同氏は、各国政府、世界保健機関(WHO)、製薬会社が協調した予防的なワクチン接種計画の必要性を強調し、3つの戦略を挙げている。

 まず、1957年のインフルエンザ流行時に認可されたものと同じワクチンを製造し、直ちに世界規模で予防接種を実施することだ。これは、科学者が「集団免疫」と呼ぶ予防法だ。あるいは大流行に備えて各国の保健当局が1957年時と同じワクチンを備蓄することや、ワクチン原薬を作っておき、流行の最初の兆しが現れたときに素早く大量生産することを挙げている。

 ヒトへの感染が再確認されるのを待たずに、直ちに予防対策に取り組むことが多大なコスト削減につながると、ノーベル氏は主張する。

■H1N1型ウイルスが変異し、より強力に

 一方、米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)のラム・サシセクハラン(Ram Sasisekharan)氏が主導する研究チームは、2009年に流行したH1N1型ウイルスの単一突然変異を発見したとオンライン科学誌「PLoS ONE」で発表した。この変異によって、ヒトに対する感染力が大きく高まる可能性があるという。

 1917年に発見された時点では感染力は弱かったH1N1型ウイルスが、9か月後に猛威をふるったのも単一突然変異が原因だった。2段階で流行の波があるのが、インフルエンザ大流行の典型的なパターンだ。

 いわゆるスペイン風邪では当時の世界人口の3%に相当する5000万人以上が死亡したが、その要因は有効な抗生物質の欠如していたことだった。

 サシセクハラン氏は研究論文の中で、H1N1型ウイルスを「継続的に監視していく必要がある」と呼び掛けている。

 WHOの統計によると、メキシコで豚への感染によって初めて発見されたことから豚インフルエンザと呼ばれるH1N1型のインフルエンザでは、2009年の流行開始以来、これまでに1万8500人が死亡している。(c)AFP/Marlowe Hood