【1月27日 AFP】米国で前年10月に世界で2例目の喉頭移植手術を受けて話す能力を回復した女性が20日、手術を担当した医師団と再会した。

 ブレンダ・ジェンセン(Brenda Jensen)さん(52)は慢性の糖尿病患者で、腎不全で入院した98年以来、発声することができなくなった。鎮静剤を投与されている間に呼吸管を何度も自分でむしり取り、喉頭部に致命的な損傷を与えてしまったためだ。

 その後、喉にあてて発声を補助する装置を使うたびに、ジェンセンさんは周囲の嘲笑と孤立感に耐えてきた。補助装置から生じる音は自分にとっても不快だった上、「みんなにロボットレディと呼ばれてからかわれた」と言う。

 しかし2010年10月に米カリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)で受けた外科医の国際チームによる咽喉移植手術で、ジェンセンさんの人生は一変した。

■準備に2年、難しい手術

 主執刀医のグレゴリー・ファーウェル(Gregory Farwell)医師によると、呼吸や嚥下、発声に関わるすべての神経や筋肉を喉頭部とつなぎ合わせる難易度の高い手術で、準備に2年を費やした。記者会見でファーウェル医師は「過去にこのチームで行った手術の中でも群を抜いて複雑な手術だった。彼女も手術は長く困難だと考えた。リスクはあったし、彼女の勇気と気力を証明する手術になった」と述べた。

 この種の移植手術を行うと、ドナーから提供された器官の拒絶反応を抑えるために、患者は生涯にわたって抗拒絶剤(免疫抑制剤)を用いなければならず、この薬によって免疫系が弱まり、がんや感染症のリスクが高まる。従って、命に関わらない障害をもつほとんどの人はリスクに見合わないと考えるため、まれにしか行われない移植術だと言う。

 しかしジェンセンさんは、糖尿病治療のための透析療法とインスリン療法を止めたいと思い、06年に腎臓と膵臓(すいぞう)の移植手術を受け、それ以来すでに抗拒絶剤を服用していた。

■「毎日が新しい始まり」

 ジェンセンさんの咽喉のドナーとなったのは、事故で亡くなった米カリフォルニア(California)州の女性だ。人間の声は声帯だけで作られるのではなく、口や舌、唇などを通って生じる音なので、ジェンセンさんの声はドナーの女性の声とは同じではない。

「毎日が私にとって新しい始まりです」とジェンセンさんは話す。「自分の声帯を使う訓練、物を飲み込むために筋肉を使う訓練を一生懸命しています。聖歌隊で歌うのは無理かもしれないけれど、普通に話せることは本当に嬉しい。また食べたり飲んだり、泳いだりできる日が待ち遠しいです」

 この手術にはファーウェル医師の他に、英ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ聴覚研究所(University College London Ear Institute)のマーティン・バーチャル(Martin Birchall)医師、スウェーデンのカロリンスカ研究所(Karolinska Institutet)のパオロ・マキアリーニ(Paolo Macchiarini)医師が参加した。(c)AFP