【1月25日 AFP】ロマン派音楽の巨匠、フレデリック・ショパン(Frederic Chopin)。愁いを帯びた青白い顔、死について思い悩む姿、現実世界の拒絶は恋人で作家のジョルジュ・サンド(George Sand)の描写でもおなじみだ。時々身の毛もよだつ幻影に苦しめられていたとも記されている。

 だが、このような症状は芸術家のロマンチックな苦悩から生じたのではなく、身体的疾患に原因があったとする論文を、スペインの2人の神経学者が24日の英国医師会(British Medical AssociationBMA)の医学誌「Medical Humanities」に発表した。

■しばしば「夢を見ているような気分に」

 スペイン北西部ルーゴ(Lugo)にあるセラル・カルデ(Xeral-Calde)病院のマヌエル・バスケス・カルンチョ(Manuel Vazquez Caruncho)氏とフランシスコ・ブラナス・フェルナンデス(Francisco Branas Fernandez)氏は、ショパンが書いた手紙や言い伝えなどを丹念に検討した。

 ショパンは1848年、英マンチェスター(Manchester)でのコンサートで、ピアノを弾いていた最中に突然部屋を飛び出し、しばらくしてから戻って続きを弾いたと言われている。

 また、ジョルジュ・サンドの娘に宛てた手紙で、「ピアノの中から呪われた生き物が出てきた。恐ろしかったよ」と書き記していた。ジョルジュ・サンドとショパンの教え子の1人は、「ショパンは時たま何かの発作に襲われた。大きく目を見開き、髪の毛は文字通り逆立っていた」と証言している。

 ショパン本人も、自分はしばしば「空想世界」に入り込み、夢を見ているような気分になると告白している。

■「側頭葉てんかん」だった?

 カルンチョ氏らは精神医学の見地から、考えられる疾患を絞り込んでいった。まず、幻聴の症状が無いことから、統合失調症ではないと判断された。

 幻覚が数秒から数分と短時間であることから、通常30分程度の幻覚を伴う重い片頭痛の可能性も排除された。頭痛はないが幻覚を伴うタイプの片頭痛もあるが、これは50歳以上で典型的に見られる症状で、ショパンは呼吸器疾患によって39歳の若さで亡くなっている。

 視覚障害を伴うシャルル・ボネ症候群(Charles Bonnet syndrome)についても、ショパンが目を患っていたことを示す証拠はないため、除外された。

 ショパンはいくつかの身体的問題を緩和するためアヘンを服用していた。だが、彼の幻覚は、アヘンによる幻覚とは種類の異なるものだった。さらに、幻覚はアヘンを服用する何年も前から経験していた。

 以上から、「側頭葉てんかん」の可能性が浮上した。症状は、まさにショパンが経験したような短時間の幻覚で、夢の中で周囲の世界と遮断されていくような感覚を味わう。このような感覚はジャメヴ(未視感)とも呼ばれる。ただし、ショパンが急に眠気に襲われたり、意識がなくなったという記述は見当たらない。

 カルンチョ氏らは、ショパンの時代、てんかんについてはほとんど知られておらず、てんかんの可能性が医師に見過ごされていた可能性があると指摘する。

 なお、2人はてんかんという結論は「あくまでも推論」としながらも、「ロマンチックに描かれた伝説的人物から真実を切り離し、ショパンとその人生をより良く理解するための新たな光明をもたらした」と自負している。(c)AFP