【3月4日 AFP】ヒトの消化器官に生息する微生物の遺伝子の全容が3日、100人余りの科学者らによる研究で解明され、英科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表された。潰瘍(かいよう)や炎症性腸疾患(IBD)などの疾患治療に利用できる可能性があるという。

■2年以上かけ微生物1000種のゲノムを調査

 研究は中国科学院北京基因組研究所(Beijing Genomics InstituteBGI)の主導で2年以上をかけて行われた。

 デンマークとスペインで、健康体、肥満体、炎症性腸患者などさまざまな成人124人を対象に、腸内検査を実施。最新のDNAの塩基配列決定法を用いて、ヒトゲノムに換算して200人分に相当する遺伝子データを収集、そこから単細胞生物約1000種の遺伝子約330万個を発見した。これは、研究者らの予想の2倍で、事実上すべての微生物に相当するという。

 研究に参加したベルギー・ブリュッセル自由大学(Vrije University)のイェルン・ラース(Jeroen Raes)教授は、「今回の研究は青写真だ。発見された微生物の大半は、これまで知られていないものだった。今後はそれぞれの機能や、疾患にどのように関連するのか調べることができる」と成果について話した。

 だが、驚くべきは見つかった微生物の数ではない。

■大半の人は同じ微生物を共有

 研究の最大の発見は、食事や住環境の違いにかかわらず、大半の人がその体内の微生物叢(そう)について、かなりの最小公分母を共有していたことだ。これまでは、特に異なる地域の人の間では微生物叢に共通点はほとんどないとみられていた。

 研究では、各人につき少なくとも160種の微生物が生息していることが分かった。これは遺伝子別に換算して50万個以上に相当し、うち約40%が被験者の約半数に共通していた。また、体内に生息する微生物の個体数は、人間の細胞の約10倍に上り、数兆個が口内、皮膚、肺、そして特に腸内に集中して生息していた。

■微生物の「最適化」で病気予防や治療も

 微生物は健康には欠かせない存在で、消化の悪い食べ物を分解し、免疫システムを活性化させ、ビタミンを生成する。しかし、最近の研究では、肥満や心疾患、IBDなどの腸内疾患に影響を及ぼすことも指摘されている。

 今回の研究について、やはり研究に参加したフランス国立農学研究所のスタニスラブデュスコ・エールリッヒ(Stanislav-Dusko Ehrlich)博士は、「研究者の考え方を完全に変えるものだ」と述べた。

 どの主要微生物が健康な腸内に生息するのかが分かれば、潰瘍や炎症性腸疾患、IBDの1種で痛みを伴うクローン病などのより正確な診断や予後診断ができるようになる可能性があるとエールリッヒ博士。「将来的には、健康のために微生物叢を『最適化』することもできるだろう。食事による病気予防や、個人の遺伝子や微生物の状態に合わせた治療もできるようになるのではないか」と語っている。(c)AFP/Marlowe Hood