【10月26日 AFP】まれに発生する先天性視覚障害であるレーバー先天性黒内障(LCA)で失明しつつある患者らに実施した遺伝子治療による視力回復例が24日、米サンフランシスコ(San Francisco)で行われた全米眼科医大会で発表された。
 
 米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)医学部のジーン・ベネット(Jean Bennett)氏らによる画期的な治療法は、矯正遺伝子を遺伝子操作で無毒化した風邪ウイルスに注入するというもの。眼球に注入された改変ウイルスは視力障害の原因となっている細胞に感染し、いわばコンピューターウイルスの「トロイの木馬」に似た働きで、正常なDNAを網膜に伝達する。 

 ベネット氏らの研究チームは、8歳から44歳までのLCA患者12人を募り、小規模な治験を実施。左右の眼球のうち、治療は視力の弱い方に行った。 その結果、完ぺきに正常な視力を回復できた被験者はいなかったが、光が目に入ったときの瞳孔の収縮度を示す瞳孔対光反射に関しては、全員が100倍以上増加した。

 また、半数の6人は、法的には視覚障害者に分類されないレベルまで、視力が回復したという。最も著しい回復がみられたのは、8歳、9歳、10歳、11歳の子どもの被験者で、実験室に設けられた薄明かりの通路を、4人とも介添えなしに歩行することができた。

 ほかにも、生まれつき、明暗しか認識できなかった男児が、フェーズ1テストの段階で、父親の目をのぞき込み、瞳の色を言い当てた。以来、親子はサッカーを楽しんでいるという。

 こうした成功について、研究チームは「劇的」や「目覚ましい」などと評しているが、今回の治験は3段階のフェーズ1にすぎず、今後は治療プロトタイプの評価や安全性、効果の確認など、より慎重さが要求される治験段階に移行する。こうした治験は、医学史上初めて。

 バイオテクノロジー分野のなかでも、先天性疾病の予防や治療に対する理論的な裏付けを持つ遺伝子医薬は、最も期待が大きい分野だ。一方で、この新たな医学分野は、予期せぬ免疫システム不全など、しばしば難題にも直面してきている。

 それでも、今回の治験には、これまでのところは副作用もなく、LCA治療への道を切り開いたといえる。研究チームによると、治療の効果は2年間持続するという。

 ベネット氏らの治験結果は24日、英医学専門誌「ランセット(Lancet)」(電子版)にも掲載された。(c)AFP