【10月19日 AFP】炎症性腸疾患(IBD)を抑制する治療で標準的に使われるチオプリン製剤は、ウイルス感染などで発症するがんのリスクを一定率高めるが、使用を避ける必要があるほどではないとの研究が、19日の英医学専門誌ランセット(The Lancet)に掲載された。

 免疫抑制剤チオプリンは、IBDと称される2疾患、潰瘍性大腸炎とクローン病に一般的に処方される。潰瘍性大腸炎(UC)は、大腸から直腸の粘膜に潰瘍やびらんができる大腸の炎症疾患で、クローン病は口腔から肛門までの全消化管に炎症を生じ得る疾患。ともに免疫系の反応異常に関係があり、白血球が過剰増加する。

 チオプリンは臓器や組織の移植の際に、拒絶反応を抑えるためにも使用されるが、これまでの研究で、臓器移植患者にチオプリンを使用した場合、ウイルス感染からがんを発症する可能性が指摘されていた。しかし、IBD患者におけるチオプリン使用で同様のリスクがあるかどうかに関する研究はほとんどなかった。

 これを突き止めるため、仏パリのサン・アントワーヌ病院(Saint Antoine Hospital)のローラン・ボージェリー(Laurent Beaugerie)医師らのチームは、仏国内のIBD患者1万9486人のデータを分析。研究には、700人近い医師から投薬治療の詳細とがん発症の報告、死亡患者数などの情報が寄せられた。患者1人あたりの治療診察期間は平均35か月だった。

 治療開始段階からチオプリンを使用した患者は全体の30%、治療を途中で中止した患者が14%、チオプリンをまったく使用せずに治療した患者が56%だった。そして治療期間中に新たにリンパ腫を発症した患者が23人いたが、そのうちチオプリン使用患者での発症率は不使用の患者の5倍だった。

 しかし全体では、チオプリン使用患者ががんを発生する絶対的リスクは1%と低いことから、論文は「今回発見された結果によって、チオプリンのリスク対効果比を損じるものではない」と結論づけている。(c)AFP