【10月10日 AFP】ロンドン(London)の金融街「シティ(City)」で働く人びとのために、元金融専門家が慈善事業として立ち上げたメンタルクリニックが大繁盛している。

 仕事に起因する精神衛生問題を扱う非営利団体クリニック「Stand to Reason」を設立したのは、元企業財務コンサルタントのジョナサン・ネース(Jonathan Naess)さん(40)。現在、所長を務めるネースさん自身も、かつて精神衰弱に陥った経験を持つ。

 ただでさえ厳しい生存競争にさらされる金融業界での仕事に、最近の金融危機で数千人の雇用削減が予想され、シティ勤務者のストレスは高まるばかり。ネースさんのクリニックを訪れる人びとの数も増える一方だ。「Stand to Reason」を訪れる人の90-95%以上が、シティに勤める人びとだという。「金融業界の大再編が予想されるなかで、失業の危機におびえながら働く状況が、多大なストレスとなることは明らかだ」とネースさんは指摘する。
 
 クリニックの心理コンサルタント、マイケル・シンクレア(Michael Sinclair)さんは、「迅速に結果を求める金融業界では『弱さ』は受け入れられず、精神衛生の問題をむしろ汚点とみなす。こうした状況から、授業員も精神的なストレスを公にしたがらない。これが、さらに彼らの精神衛生を悪化させている」と危ぐする。

 こうした状況を変えるのはたやすいことではないが、ネースさんは、規則正しい食生活に加え、フレックスタイムの導入を提案する。ストレス治療のために退社しやすくするためだ。

 ネースさん自身も、オックスフォード大学(Oxford University)卒業直後の20代始めに、ストレスによる躁うつ病と診断されたことがある。「当時は、本当にもう駄目だというぎりぎりまで働き続けてしまった。躁うつ病の知識もなかったから、その症状にも気付けなかったんだ」と話すネースさんは、仕事環境がもたらす強いストレスで数日間も不眠に苦しみ、ついには病院の精神科に入院した。

 2007年3月、長期休暇中のネースさんは「Stand to Reason」を設立した。同団体の支援者には、英住宅金融最大手HBOSのデニス・スティーブンソン(Dennis Stevenson)会長などがいる。

 しかしネースさんは、「Stand to Reason」に一生を費やす意志はない。時がくれば、国際金融の第一線に復帰するつもりだと言う。(c)AFP