【8月21日 AFP】インターネット上の仮想空間で猛威を振るう感染症が、実際の感染症の影響を予測する研究者の助けになるかもしれない。そのような研究結果が21日、発表された。

 これは米ニュージャージー(New Jersey)州ラトガース大学(Rutgers University)の研究者Nina Fefferman氏とボストン(Boston)にあるタフツ大学(Tufts University)の感染症学者Eric Lofgren氏が共同研究したもの。

 Fefferman氏は「ワールドオブウォークラフト(World of Warcraft)」のようなバーチャルプレイグラウンドと呼ばれるインターネット上の仮想環境が近い将来、鳥インフルエンザ、マラリアや、未知の致死ウイルス対策の実験場となる可能性があるという。

「ワールドオブウォークラフト」は2004年に立ち上げられ、900万人が参加する多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム(Massively Multiplayer Online Role-Playing GameMMORPG)。インターネットを介して多数の人々が参加し、自身に見立てたキャラクターを操作して戦闘を行ったり、同盟を組んだり、また会話したりする。

 Fefferman氏は現在、米カリフォルニア(California)州に本社を置くブリザードエンターテイメント(Blizzard Entertainment)と、「ワールドオブウォークラフト」の更新版で有効な科学的データを引き出す方法について協議中だという。同社は「ワールドオブウォークラフト」を開発・運営しているフランスの大手メディア会社「ビベンディ(Vivendi)」傘下の企業。

 同氏はまた「日常生活で科学技術と生物学がますます一体化する中で、仮想ウイルスと人間の関係を調べる、この小さな1歩がとても重要になる可能性がある」と強調した。

■実際の感染症のように広まる仮想ウィルス

 科学研究者とゲーム業界との協力関係という、ユニークな試みが始まったのは2005年後半。当時ブリザード社のプログラム開発者は「Corrupted Blood」と名付けた感染性の高い病気を、「ワールドオブウォークラフト」上に新規作成したビザンチン帝国の場面に取り入れた。

 当初、ダウンロードされた新しいアイテムが含まれた「パッチ」は想定通りに動作した。経験豊富なゲーム参加者は「Corrupted Blood」を「ひどい風邪」と軽視する一方、経験の浅い参加者は自身のキャラクターが機能しなくなった。

 しかしその後、状況は制御不能となった。現実世界と同様にウイルス感染者が仮想世界で人口密度の高い都市に入り込み、無防備な住人に即座に感染した。また、ゲーム参加者が自身のキャラクターへの感染の恐れから、ウイルスに感染した家畜を捨て、その家畜が自由に町を行き交うようになってさらにウイルスが広まった。これは、実際のインフルエンザや感染症の感染状況に酷似していた。

 ゲーム開発者は隔離施設を設けようとしたがそれは無視され、現実世界では選択不可能な最終手段を使った。つまり、いったんインターネットのサーバーをシャットダウンし、再起動した。

■数学的シミュレーションの限界

 Fefferman氏はゲーム上で感染症が広まったとき、そのゲームに参加していたが「仮想ウイルスが仮想の人間に、現実世界の感染症と同じ方法で感染していったのは初めてだった」と語る。

 両氏は感染症の感染経路の研究にオンラインゲームを利用する可能性をすぐに認識し、それについて既に協議しているという。

 感染症学者はこれまで、多数の人々への感染予測を数学的なシミュレーションに大きく頼ってきた。ただし数値演算には限界があり、Fefferman氏は「(数学的なシミュレーションでは)危機的状況下における人々の行動パターンを知ることができない」と指摘している。(c)AFP/Marlowe Hood