【7月29日 AFP】英国のエリザベス女王(Queen Elizabeth II)に委託されてエリザベス皇太后の公式伝記『Queen Elizabeth the Queen Mother』(2009)を執筆した英作家でジャーナリストのウィリアム・ショークロス(William Shawcross)氏(67)は、手書きの書簡が徐々に廃れつつある現状は電子メールを傍受している情報機関にとって追い風になるものの、伝記作家には好ましくないことだと語った。

 ショークロス氏はカンボジアやイラン国王の失墜、メディア王ルパート・マードック(Rupert Murdoch)氏、イラク戦争、9.11米同時多発テロ後の世界における正義など、さまざまな題材について刺激的な著作を発表し、米ピュリツァー賞(Pulitzer Prize)にノミネートされた経験を持つ。

 女王から皇太后の伝記執筆を頼まれた際、ショークロス氏はウィンザー城(Windsor Castle)に保管されている皇太后の全書簡の閲覧を認められた。

「香港ブックフェア(Hong Kong Book Fair)」の公開討論会に出席したショークロス氏は、AFPの取材に「誰も見たことがない資料を入手するのはジャーナリストとして喜び」と語り、皇太后の書簡について「人々がそれまで見たことがなかった100年の歴史がそこにあった」と振り返った。

 だが、私たちが書状を作成する代わりに、キーボードやスマートフォン(多機能携帯電話)、タブレット型端末の画面をタップするのに費やしている時間を考えると、こうした貴重な資料の発見は近いうちに過去のものになるかもしれない。

 ショークロス氏は、ウィリアム王子(Prince William)の伝記は、誰が執筆することになっても苦労するだろうと述べる。「チャールズ皇太子(Prince Charles)は皇太后のように長い書簡を書くが、ウィリアム王子は電子メールやテキストメッセージを送信している。伝記を執筆する際にそれらを見ることはできない」と語った。

 一方でショークロス氏は、書簡が廃れてしまうことで未来の伝記作家の執筆が「非常に困難」になるとはいえ、情報がどこにも保管されていないと言っているわけではないと付け加えながら、「私が若かったころのようなプライバシーはもはや存在しない。イングランドにはどの交差点にもカメラが設置され、どのテキストもサーバーに永久保管されている。とても恐ろしいことだ。私は、ロシア政府が、盗難されにくいという理由でタイプライターと紙を再び使い始めるとの記事をきっと読むことになるに違いないと思っていたよ」と語った。(c)AFP/David WATKINS