【10月11日 AFP】年間1000万人が訪れる中国のユネスコ(UNESCO)世界遺産「万里の長城(Great Wall)」で、観光客の増加による破壊が進んでいる。特に、北京(Beijing)からほど近い人気スポットの八達嶺(Badaling)ではゴミが散乱し、壁には落書きがひしめく惨状だ。

 ジンやウイスキーの空き瓶、潰れたビール缶に、投げ捨てられた食べ物の容器――。夜明けの八達嶺にあふれるゴミの山は、満月の夜に開かれたテクノ音楽のレイブ(野外音楽パーティー)の名残だ。関係当局は今、そのたぐいまれな雄姿を観光客に公開しつつ世界遺産を保護する方策に頭を悩ませている。

■長城で宿泊、付近に工場、土産店

 八達嶺の壁は、外国語の名前やコメントや落書きで埋め尽くされている。万里の長城の保護活動を25年近く続けてきた英国人活動家によると、「(八達嶺から)数キロ歩かないと、落書きのない壁を見つけることはできない」という。

 この活動家が組織したボランティア団体「万里の長城の国際的支援(International Friends of the Great Wall)」は1998年以来、これまでに数百キログラムに及ぶゴミを拾ってきた。ゴミが散乱する様子を撮影し、「警鐘を鳴らす」写真を北京市文化遺産当局に提出もしたという。

 しかし、「ゴミは氷山の一角に過ぎない」と活動家は言う。「それはつまり、中国の象徴である万里の長城がどれほど疎かに扱われているかを示しているのです」

 八達嶺地区の管理に以前関わっていた北京・精華大学(Tsinghua University)の講師によると、万里の長城でテント宿泊する観光客も多く、石畳の間にテント設置用の杭が残っていることもあるという。しかし、万里の長城内で眠ることを禁止する規則は存在しない。

 また、観光客の増加で八達嶺地区には、土産物店や飲食店、駐車場などが次々と作られた。長城の土台に工場を建設してしまっている地区もある。また、オートバイのジャンプ競技やファッションショーまで、ありとあらゆるイベントの会場として利用され、テレビや映画の舞台にも幾度も使われてきた。

■大きすぎて管理不能?

 紀元前3世紀~明朝(1368~1644)代に建造された万里の長城は、11省にまたがり、断続的に全長8800キロ以上続く。しかし、観光地化以前から道路や線路を敷設するため破壊され、また地元住民らの住宅の建材として石が盗まれたりしてきた。

 前出の英活動家によれば、「塔も含めて建造物がちゃんとした状態で残っているのは550キロほどしかない」という。

 現在、長城の周囲500メートル以内には新たな建造物を造ってはならないという法律が施行され、駐車場も撤去されるなど、世界遺産へのダメージを最小限に抑えるための措置が取られつつあるが、まだ不十分なのが実情だ。

 元管理官の精華大講師は「省をまたがりすぎていて、管理するなんて不可能だ!万里の長城の全域を保護するための機関は存在しない」と語った。(c)AFP/Pascale Trouillaud

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