【9月12日 AFP】日本の現代美術家、村上隆(Takashi Murakami)氏(48)の作品展が14日からフランス・パリ(Paris)郊外のベルサイユ宮殿(Chateau of Versailles)で始まるが、すでに宮殿の随所に出現したアニメ風のキャラクターなどをモチーフとするポップアートに、賛否両論が沸き起こっている。

 大理石の壁、金箔で装飾をほどこした柱頭、フレスコ画で飾られた天井-目もくらむようなベルサイユ宮殿の広大な空間を、驚くことに金属、グラスファイバー、アクリルでできた作品たちが支配している。

 村上作品のひとつである樹脂製のメイド像「Miss Ko2」が、「戦争の間」を見下ろしているのはいかにも不釣り合いだが、庭園に立つゴールドの像、「大仏オーヴァル(Oval Buddha)」を遠くから見ると、きらびやかな宮殿本来の装飾と見間違えそうにもなる。

■「ムラカミ・バッシングには慣れている」

 ルイ14世(Louis XIV)の絶対王政を象徴するベルサイユ宮殿で、こうした展覧会を開催するのは違法だと、フランスの君主制主義者たちは反対している。

 しかし開幕を控え記者会見した村上氏は、日本でも同様の反対運動はあり、「ムラカミ・バッシング」には慣れていると明かした。村上氏によると、SNSサイトには同氏の作品に批判的な人が3000人もいると言う。

 ポップアートの巨匠、アンディー・ウォーホル(Andy Warhol)と並び「ニューポップ」と称される村上氏だが、ロココ建築の贅を尽くした太陽王ルイ14世の宮殿と「競い合う」ことで、「今までで最も複雑な展覧会」になったと自ら評した。

 ベルサイユ宮殿で初めて現代美術展が開かれたのは2008年、米国のジェフ・クーンズ(Jeff Koons)氏の作品展だった。このときも保守派から激しい批判が起き、ルイ14世の子孫の1人が先祖を冒涜するものだとして開催中止を求め、訴訟を起こしたが退けられた。

■テーマは「社会のモンスター」

 今回の展示作品には、自分の母乳で縄跳びをする胸の大きな少女のフィギュア『HIROPON』(1997年)や、自慰行為をする裸の青年のフィギュア『My Lonesome CowBoy』といった話題を呼んだ作品はないが、村上氏は「自分の作品にはエロティックなものは少ない」ので、展示の中になくても意外なことではないと語る。

 村上氏によると、あくまで主要なテーマは「社会のモンスター」で、それが時としてエロティックな表現になるだけであり、だから「エロティックな芸術家だと、あまり呼ばないでほしい。わたしは普通のアーティストだ」と語った。

 前文化相でもあるベルサイユ宮殿美術館の館長、ジャン・ジャック・アヤゴン(Jean-Jacques Aillagon)氏は、今回の作品展が論争を呼んでいることは承知しているが、論争と検閲の区別はきちんとつけるべきだと強調する。「ある映画が嫌いだからといって、その上映を禁じたとすればそれは社会的な検閲だ。それはあってはならない」。また「現場で作品を見ずになされている批判は、偏見によるものだ」と語った。

■観光客の評価は

 しかし、ベルサイユ宮殿の歴史にひかれてやって来た観光客たちは、村上氏の作品にあまり感銘を受けていないようだ。

 米ウェスト・バージニア(West Virginia)州から妻と共に訪れた男性は、「色々鑑賞しようとしても、気が散ってしかたない。宮殿と観光客を侮辱しているようなものだよ。ごてごてとした下品な派手さを、これでもかと見せつけられている気分だ」 

ブラジルから来たという男性も、宮殿に展示されている日本のアートが気に障ると話す。「ここで繰り広げられた歴史を見たかったのに。人形やクレージーなモンスターが目に入るたびに、一気に興ざめしてしまう」

 名古屋から観光に来た日本人女性は、村上氏の名前はここに来るまで聞いたことがなかったし、こうした作品にはあまり興味がないと話した。「フランスとか、外国の人のほうが合うのかも。ニューヨーク(New York)ではとても有名な人なんでしょ?」(c)AFP/Charles Onians

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