【10月8日 AFP】生涯をかけて偉大な先達の芸術作品をたたえ、再現し、そして破壊しようとし続けた、画家パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)――。こうしたピカソと西欧の巨匠画家たちとの関連性に焦点を当てた企画展が8日、パリ(Paris)のグランパレ(Grand Palais)で開幕した。

Picasso and the Masters(ピカソと巨匠たち)」と題されたこの企画展に展示されるのは、ピカソ本人の作品に加え、エル・グレコ(El Greco)、ディエゴ・ベラスケス(Diego Velazquez)、ゴヤ(Goya)、ティツィアーノ(Titian)、レンブラント(Rembrandt)、ゴッホ(Vincent Van Gogh)、ウジェーヌ・ドラクロワ(Eugene Delacroix)、エドゥアール・マネ(Edouard Manet)らの作品、計200点以上。スケッチ、ヌード、肖像画、初期のキュビズムの作品などを通して、ピカソと先人たちとのつながりをひもといていく。

 パリのピカソ美術館(Picasso Museum)館長で今回の企画展でもキュレーターを務めるAnne Baldassari氏は、「現代の前衛芸術家の中で、これほど大きく絵画史をリードした人物はピカソ以外にいない」と語る。

 ピカソは、14歳で本格的な画法と製図の技術を習得した早熟の天才だった。成人してからは、自分と巨匠たちを常に比較し続けていたという。しかしBaldassari氏は、「ピカソが誰それから影響を受けたと言いたいわけではない。彼はすべての分野の絵画史の橋渡し的な存在なのだ」と語る。

■ピカソと巨匠たちの関連を示す展示手法

 数年間を費やして巨匠たちの傑作を模倣したピカソの多様性に富んだ作品も、この企画展で多数見ることができる。グランパレではベラスケスの「ラス・メニーナス(Las Meninas、女官たち)」を題材にした連作58点が展示の中心になっている。ルーブル(Louvre)美術館とオルセー美術館(Orsay Museum)で平行して行われる展示会では、ドラクロワとマネの作品の模写に焦点が当てられている。

 一部の批評家から「共食い」とも呼ばれる、ピカソが巨匠たちに向けたこうした情熱は、一般に理解されていたわけではなかった。「こうした模倣の行為は作品を食い尽くすのではなく、相手の力を吸収するためのもの。愛情や尊敬の表現でもある」とBaldassari氏は説明する。

 企画展には、ピカソが研究し、構成やテーマ、色使いから影響を受けたと言われる、そのほかの作品も展示されている。キュビズム誕生に関しては、ピカソがフランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaran)の作品の光と影、エル・グレコの空間の分割を研究したことが、記録からわかる。

 犠牲を表現したスルバランの作品「神の子羊(Agnus Dei)」を中心にした暗い展示室には、第二次世界大戦の直前にピカソが描いた頭がい骨や骨の残酷な絵が展示されている。

 Baldassari氏は、エル・グレコの「Saint Martin and the Beggar」の構成とピカソの1905年作品「馬を引く少年(Boy Leading a Horse)」には強い関連があると指摘する。

 企画展最後の展示室には、ゴヤの「La Maya Desnuda」、マネの「オリンピア(Olympia)」、ティツィアーノの「Venus Delighting Herself with Love and Music」が並んだ状態で、ピカソが晩年に描いた12点のヌードと対照的に展示されている。

■集められた約200点の総額は約2800億円

 今回展示されている約200点の半数はパリのピカソ博物館から、残りはスペイン・マドリード(Madrid)のプラド美術館(Prado Museum)、ニューヨーク近代美術館(Museum of Modern ArtMoMA)、ドイツ・ベルリン(Berlin)のゲマルデガレリー美術館(Gemalde Galerie)、英ロンドン(London)のナショナルギャラリー(National gallery)などから集められた。

 主催者側はこれほど多くの名作が集まったのは「奇跡」だと言う。450万ユーロ(約6億2000万円)という予算もフランス史上最大級のもの。その5分の1は、総額20億ユーロ(約2800億円)と言われる全展示品の保険金だ。会期は2009年2月2日まで。(c)AFP/Emma Charlton