【10月11日 AFP】アテネ(Athens)の当局は、これを「ギリシャの悲劇」と呼ぶ。だが、当のアーティストたちは、ミューズが舞い降りてきたから描いただけだと言う。

 ギリシャの教会や考古学的な遺跡は、これまで、グラフィティや「タグ」と呼ばれる署名のような落書きの被害を免れてきたが、首都アテネ(Athens)では彫像などのモニュメントへの落書き被害が増えている。「モニュメントかどうかを、見分けることもできないのかしら!」と、被害状況を調査中のある建築家は嘆く。 

 この種の「アート」は1810年までさかのぼることができる。22歳の英国の詩人、バイロン卿(Lord Byron)はこの年、アテネを訪問し、ポセイドン神殿の壁に自分の名前を落書きしたのだ。自分の落書きが遺跡の一部として名物になろうとは、バイロン卿自身も予想だにしていなかったに相違ない。

 ギリシャでは昔から、スポーツや政治に関連した落書きというものはあったが、若い「クルー」たちが縄張り意識から行うストリートアートやタグ書きは、多くのアテネ住民にとってはなじみのないものだ。

 トカゲやドラゴンのグラフィティを得意とする28歳のストリートアーティストは、「グラフィティは破壊行為で、闘争の一種」だと言う。彼は、自分自身がフーリガン行為や薬物乱用に走らぬよう、グラフィティを描いている。「醜悪と憎悪に満ちあふれた都市」で育ったことへの答えだとも言う。

 落書きは、アテネの郊外や狭い露地から、徐々に中心部の広場や公共物にまで及ぶようになっている。

 落書きを消す作業は月に1回行われ、1回につき2000ユーロ(約27万円)を要する。彫像やモニュメントの復元作業には2万ユーロ(約270万円)以上がかかるという。

 ヒップホップやラップと同じ系統に属するストリートアートがギリシャに上陸したのは、1990年代前半。2004年のアテネ五輪の前にブームが起こった。一部のアーティストはギャラリーに見いだされ、ホテルやレストランで展覧会を開くまでになっている。(c)AFP/John Hadoulis