【ソウル/韓国 6日 AFP】核保有国であり、外国へのミサイル輸出で悪名高い北朝鮮だが、意外なものも輸出している。かわいらしいアニメ・キャラクターである。

■北の重要な収入源であるアニメ

 韓国の専門家によると、アニメ映画産業により北朝鮮に、貴重な外貨と世界のIT技術へのアクセスの両方がもたらされるという。

 「アニメは北朝鮮が世界の流行について行っている珍しい部門の一つです」韓国アニメーション制作者協会(Korea Animation Producers’ Association、KAPA)の役員、Lee Kyo-Jung氏は語る。

 「北朝鮮は北米、ヨーロッパ、アジアのアニメの下請けを行っています」Lee氏によると、大手の取引先はフランス、イタリア、そして中国のスタジオだという。

 Lee氏は韓国と北朝鮮の協力アニメ制作の可能性を議論するために北朝鮮を訪問した。北からは人材を、韓国からは機器と資金を投入するというものだ。

 北朝鮮では数十年に渡り、子供に社会主義のイデオロギーを吹き込むためにアニメが利用されてきた。その他のアニメは娯楽に乏しい国民の毎日の生活に楽しみをもたらしている。

 「トムとジェリー(Tom and Jerry)」は共産主義国の北朝鮮でゴールデンタイムにヒットを記録したとLeeさんはいう。「国民はこのアニメが大好きなんです。彼らは無鉄砲なネコを米国、賢いネズミを北朝鮮としてみているのです」

 北のアニメ制作拠点は、SEKスタジオ(SEK Studio)として知られている。1600人いた制作スタッフはコンピューターの導入で500人にまで削減された。

 「SEKは北最大の稼ぎ頭の一つです」北朝鮮生まれで、米人気アニメ「シンプソンズ(The Simpsons)」でも仕事をした経験があるプロデューサー、Nelson Shinさんは語る。

 「SEKは外国貿易と直接関わりを持てて、代表を派遣できる北朝鮮では珍しい会社です」北に頻繁に足を運ぶShinさんは述べた。

■韓国と北朝鮮ジョイント制作の利点

 SEKスタジオは、Shinさんの韓国を拠点とした会社、KOAA Filmsの650万ドルを投入した韓国版シンデレラ・ストーリーのアニメ映画「王后沈清(Empress Chung)」の製作に関わった。

 この韓国と北朝鮮初の共同製作映画は2005年8月にソウルと平壌で同時公開された。

 「北朝鮮のスタッフの手先の器用さには驚かされました。手先の能力に関しては、同等の韓国のスタッフよりも優れているともいえます」

 Shinさんは、ディズニー(Disney)がヨーロッパ向けの「ライオン・キング(Lion King)」と「ポカホンタス(Pocahontas)」のテレビシリーズの制作の下請けをSEKに頼んだことを明かした。

 KAPAのLeeさんによると、北朝鮮のアニメ制作は韓国の1960年代中盤よりも早く、1950年代中頃から行われており、技術を学ばさせるために若い作家を当時のチェコスロバキアに送ったという。

 しかし豊富な人材とコンピューター技術を有する韓国は、1997年のピーク時には1億2000万ドル余りを下請けから稼いでいた。

 現在は、遅れてこの業界にやってきた中国やベトナム、インドが伸び続ける下請けの需要の多くを占めており、韓国は単純作業中心から創作力重視の作品作りにシフトしている。

 北朝鮮のアニメ映画の成長は、大の映画ファンでこれまで何千本に及ぶ映画を手掛けてきたという金正日(Kim Jong-Il)総書記の支援が反映されている。

 後からこの産業に入ってきた国々との低クオリティー分野の価格競争に敗れた北は今、コンピューターを駆使したアニメにフォーカスし、より高い品質のマーケットを狙っている。

 「北朝鮮の人たちにとってアニメは収入源であるだけでなく、外の世界の技術を知る手段でもあるのです。彼らはグラフィック技術などのテクノロジーをものにするのにとても熱心です」アイコニックス・エンターテインメント( Iconix Entertainment)のマーケティング・ディレクター、Kim Jong-Se氏はこう語る。

 「北の人々は言われたことをやるのはとても上手なのですが、創作力を使った仕事は難しいようです」

 アイコニックスのCEO、Choi Jong-Il氏は韓国と北朝鮮は、役割を分けることで、どちらにも利益を見出せるという。

 「韓国が全体的なプランを立て、メイン・プロダクションを北朝鮮が担当するという形で行えば、協力プロジェクトは必ず両者に利益をもたらすことでしょう」。

 写真は「王后沈清」のワンシーン(2月5日提供)。(c)AFP/HO/KOAA Films