【11月30日 AFP】米航空宇宙局(NASA)は29日、太陽に最も近い惑星である水星の極地域に大量の氷が存在することを示す新たな証拠を発見したと発表した。

 NASA水星探査ミッションのデービッド・ローレンス(David Lawrence)氏によると、水星探査機メッセンジャー(MESSENGER)が取得した新たなデータに基づいた分析で、「ワシントンD.C.(Washington D.C.)と同じ面積に広げたとすると、厚さが3.2キロメートルに及ぶほど」の量の氷の存在が示唆されたという。

 水星は、表面の大部分は極めて高温だが、自転軸が公転面に対してほぼ垂直であるため、極地域が灼熱の太陽光線にさらされることはない。科学者らは以前から、水星の日の当たらない部分に氷となった水が蓄えられているのではないかという仮説を立てていた。

 1991年にプエルトリコの望遠鏡を用いた観測で、水星の極地域にレーダーの電波をよく反射する地域が見つかったことでこの仮説に弾みがついた。だが2011年に水星の周回軌道に入ったメッセンジャーがもたらした新データにより、これまで謎だった水星の極地域の詳細なモデルを作ることが可能になった。

 メッセンジャーの画像から、過去のレーダー観測で明るく示されていた部分は太陽の光が当たらない温度の低い領域に存在していることが確認された。また、メッセンジャーの中性子スペクトロメーターを用いて水素の量を分析した結果、最も冷たい地域の地表には水が存在していること、それよりわずかに温度が高く氷が解けると考えられる地域は濃い色の物質で覆われていることが分かった。濃い色の物質に含まれている水素の量は、水に含まれる水素の量よりも少なかった。

■新たな謎も

 この物質こそが、水がどのようにして水星にもたらされたのかを知る手がかりだと研究者たちは話している。プロジェクトに参加したデービッド・ペイジ(David Paige)氏によれば、断熱材の役割を果たすこの物質は、彗星(すいせい)や揮発性物質に富んだ小惑星の衝突によって水星に運ばれた複雑な有機化合物の混合物である可能性が高い。また、水星の水も同じく、これら小惑星や彗星によって運ばれた可能性があるという。

 一方、米コロンビア大学(Columbia University)ラモントドハティ地球観測研究所(Lamont-Doherty Earth Observatory)のショーン・ソロモン(Sean Solomon)氏は、今回の発見により新たな謎も生まれたと話す。「この濃い色の物質は果たして、その大半が有機化合物でできているのか。どのような化学反応を経て生まれた物質なのか。水星の表面または地中には、液体の水と有機化合物が共に存在する部分があるのだろうか──。これらの問いに答えるには、さらなる水星探査を進めるほかない」

 メッセンジャーによる新たな探査結果を報告する3本の論文は、29日に米科学誌サイエンス(Science)の電子版「サイエンス・エクスプレス(Science Express)」で発表された。(c)AFP