【5月17日 AFP】米科学者らが開発した思考のみでコントロールするロボットアームを使って、全身まひの女性がボトル入りコーヒーを飲む実験に成功した。開発が進めば将来、全身まひ患者が再び自立した生活を送れるようになるかもしれない。

 16日の米科学誌ネイチャー(Nature)に発表された研究によると、歴史的瞬間が生まれたのは2011年4月12日。14年前に脳卒中で全身まひとなり話すこともできなくなったキャシー・ハッチンソン(Cathy Hutchinson)さん(58)が、頭の中で念じるだけでロボットアームを動かし、机の上のコーヒーのボトルをつかんで持ち上げ、口元へ運んでストローで飲むことに成功したという。

 神経学者のリー・ホークバーグ(Leigh Hochberg)氏は電話記者会見で「彼女にとっては、自分だけの意思で物を持ち上げたのは15年近くぶり。成功した瞬間の笑顔は、研究チーム全員にとって決して忘れられないものとなった」と語った。

 ロボット機器を脳で操作して物をつかむ臨床実験で、論文が審査を通過したのは今回が初。

 実験は「ブレーンゲート(BrainGate)」と呼ばれる最先端のブレーンマシン・インターフェース(BMI、脳介機装置)を使って行われた。神経科学者のジョン・ドノヒュー(John Donoghue)氏によるとこれは、患者の脳の運動皮質に小さな電極を埋め込み、読み取ったニューロンの電気信号をコンピューターで解析して、ロボットアームの動きへと変換する。

 研究は米退役軍人省、米ブラウン大学(Brown University)、米マサチューセッツ総合病院(Massachusetts General Hospital)、米ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)、ドイツ航空宇宙研究センター(German Aerospace CentreDLR)の協力のもと進められており、6年前には初期段階として、全身まひ患者が思考によってコンピューター画面上のカーソルを動かす実験に成功していた。

 今後はロボットアームを改良し、より複雑な作業をもっとスムーズに行えるようにする予定だ。ドノヒュー氏によると最終的には、患者の脳とまひした手足を直接つなげて再び動かせるようにしたり、義肢を脳で動かせるようにしたりして、誰にもBMIの使用を気付かれずに自然な生活が送れるようにすることを目指しているという。(c)AFP/Mariette le Roux

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