【4月13日 AFP】ヒヒは意味のある文字列(単語)を理解できるという仏研究チームによる実験結果が12日の米科学誌サイエンス(Science)に発表され、人間の文字認識について興味深い問いを提示している。

 フランスの研究用施設で行われた実験で、ヒヒたちは意味のある単語と、単なる文字列を区別することを学習した。

 特別に用意された実験施設では、ヒヒたちが自由に行き来できるようにした大きな囲いの中にタッチパネル式のコンピューター・スクリーンを数台設置。たとえば「KITE(凧)」など意味を持つ単語と、「ZEVS」のように無意味な文字列を組み合わせ、4文字の文字列を2つずつ並べて映し出した。データバンクの中身は単語500語と、無意味な文字列7832個だった。

 6匹のヒヒに2つの文字列のどちらかを選んでスクリーンにタッチさせ、「単語」を選んだ場合は報酬として自動で餌が出るようにした。1か月半の実験期間でヒヒ6匹がスクリーンに触れた回数は1匹平均5万回、1日あたり最高で計3000回だった。

■正答率75%、300単語覚えたヒヒも

 研究を率いた仏エクス・マルセイユ大学(Aix-Marseille University)認知科学研究所のジョナサン・グレンジャー(Jonathan Grainger)氏によると、ヒヒたちは75%の正解率で単語と単なる文字列を区別するようになったという。

 論文は「意味のある単語と意味のない文字列の表記的な近似性を考慮すれば、驚くべき結果だ」と指摘。「さらに研究を重ねた結果、ヒヒたちは単純に単語を記憶しているだけではなく、つづりの組み合わせの頻度に基づいて単語と文字列を区別することを学んでいた」ことも明らかになったと述べている。

 この学習実験でチャンピオンに輝いたのは「ダン」と名付けられたヒヒで、他のヒヒの約3倍にあたる308単語を覚えた。

 今回の実験では、ヒヒたちが単語の意味まで理解していることを示す材料はなかったが、ヒヒに単語と文字列の区別を学ぶ能力があるという発見は、ヒトが読字能力をいかに獲得したのかという考察に新たな手掛かりを与えそうだ。

 これまでの一般的な説では、人間は発話を通じて単語を認識するようになると考えられていた。発話の中で音列を手掛かりに、文字列を単語として処理するというものだ。しかし、人間の言葉を全く話さないヒヒが単語を認識できるとなれば、この「発話仮説」は「完全でないか、誤っている可能性もある」と米デューク大学(Duke University)のマイケル・プラット(Michael Platt)氏はサイエンス誌にコメントを寄せている。(c)AFP