【2月26日 AFP】オーストラリア・ニューサウスウェールズ大(University of New South Wales)量子コンピューターテクノロジーセンター(Centre for Quantum Computer TechnologyCQCT)の研究者らが、原子1個で構成され、実際に動作するトランジスタを作ることに成功したと、19日の科学誌「ネイチャー・ナノテクノロジー(Nature Nanotechnology)」に発表した。次世代コンピューターに向けた大きな一歩だという。

 トランジスタを構成しシリコン表面にエッチングされた要素は、リン原子ただ1つ。電流を制御する原子レベルの「ゲート」と金属接点も付いている。

 電流をオンオフまたは増幅するトランジスタは、コンピューターの集積回路の構成要素だ。半導体業界には、米半導体大手インテル(Intel)の創業者、ゴードン・ムーア(Gordon Moore)氏が予測した「ムーアの法則」なるものがある。「集積回路に載るトランジスタの数は約18か月ごとに倍になる」というもので、50年以上も前から驚くべき正確さで守られてきた。だが、トランジスタの小型化で飛躍的な進歩を成し得なければ、2020年までに壁に突き当たる可能性が出ていた。

■製作方法

 研究チームは、真空状態に置いたシリコン結晶からトランジスタを製作した。エッチングには、原子を超微細な金属の先端で操ることができる走査トンネル顕微鏡を用いた。

 ナノスケールの「溝」にリン原子を沈着させて水素の不活性層で覆い、不要な部分を除去。化学反応で「トランジスタ」原子をシリコン表面に溶接した。

 こうして出来たトランジスタは、液体ヘリウムで作製された超低温の環境の中で動作した。なお、これは完成品ではなく、単一原子のデバイスの作成と制御が可能であるという原理を証明したものにすぎないという。

 同センターのミシェル・シモンズ(Michelle Simmons)所長によると、過去にも原子レベルの大きさのトランジスタを作ることには成功しているが、この時は設計図通りに完成したというよりは、偶然出来上がった代物だったという。

「今回のデバイスは完ぺき。基板上の単一原子をこのように高い確度で制御できることが示されたのは、今回が初めて」と、シモンズ所長は語った。(c)AFP

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