【9月29日 AFP】墓の中のアルバート・アインシュタイン(Albert Einstein)はここ数日、試練にさらされている。

 全ての始まりは前週末、素粒子ニュートリノが光より速いという実験結果が発表されたことだった。世界中の物理学者たちはショックを受けた。アインシュタインが1905年に発表した特殊相対性理論に基づき、「光より速い物質は存在しない」というのが物理界のほぼ常識となっていたからだ。偉大なるアインシュタインはどこかで大きな間違いを犯したのだろうか?

 ところが、まさにアインシュタインの名声が地に落ちようとしていた矢先の28日、宇宙規模の実験で相対性理論を立証したとするデンマークの天文学チームの論文が、英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。

■星団の「赤方偏移」で検証

 アインシュタインの一般相対性理論によると、星や銀河から発せられた光は天体の重力の影響を受けてわずかに曲がる。そこで、デンマーク・コペンハーゲン大(University of Copenhagen)の宇宙学者、Radek Wojtak氏の研究チームは、銀河星団から発せられた光を測定することによって相対性理論を検証しようと試みた。

 銀河星団は深宇宙にあり、重力で互いに引き合う多数の銀河で構成されている。そのため、銀河星団全体の密度と質量は、内部の銀河が発した光に対し、知覚できるほどの重力効果を及ぼしているはずだと考えられる。

 研究チームは、銀河星団の約8000個の銀河が発する光について、「赤方偏移」を測定した。原理はこうだ。宇宙が膨張すると、星から発せられた光の波長も長くなるため、光は徐々に赤くなる。これは、地球とその星の距離が広がったことを意味する。

 測定の結果、重力が最も密な銀河星団中心部の銀河と、銀河がまばらな星団外側の銀河とでは、赤方偏移にわずかな差異が認められた。「中心部にある銀河の光は、重力場を這い出るように伝わっていた。一方、外側にある銀河から出た光はたやすく移動していた」(Wojtak氏)という。

 チームは次に、重力ポテンシャルを算出するため、銀河星団全体の質量を測定した。すると、赤方偏移は銀河星団の重力の影響の度合いに比例していることが確認された。Wojtak氏は「この方法で、相対性理論は立証された」と述べている。

 これまでは、光に対する重力の影響に関するアインシュタインの理論の検証は、太陽系内部でしか行われておらず、原則的に水星の重力による太陽光の赤方偏移の測定によっていた。なお、今回の発見はダークマターやダークエネルギーに関する通説を否認するものではないという。(c)AFP/Richard Ingham

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