【5月12日 AFP】実験用マウスの表情から痛みの程度を読み取る尺度を開発したカナダ・マギル大学(McGill University)の研究者らの論文が9日、科学誌「Nature Methods」に掲載された。

 研究者によると、開発された尺度「マウス・グリマス・スケール(Mouse Grimace Scale)」(「グリマス」は「しかめっ面」の意)は人間用の鎮痛剤の研究開発に役立つだけでなく、実験動物たちの苦痛を減らし、獣医学の分野でも役立つ可能性があるという。

 痛みや鎮痛に関する研究はマウスを使った実験にたよる部分が非常に大きく、マウスが感じる痛みの程度を正確に測る必要がある。しかし、マウスが感じている痛みとその表情の間に、人間の場合と同じような関係があるのか分かっていなかった。人間については、幼児や認知障害がある患者など、苦痛を言葉で表現できない人の痛みを医師らが知るための尺度が開発されている。

 マギル大のジェフリー・モーギル(Jeffrey Mogil)教授らは、マウスも痛みを感じたときに顔をしかめるのか確かめるため、痛みを伴う炎症を起こす薬剤をマウスに注射し、注射前と注射中の表情の変化を記録した。その結果、マウスにも人間と同じような苦痛の表情が見られ、鎮痛剤を投与するとマウスの表情は元に戻ったという。

 開発された尺度は、目の細め方、鼻のふくらみ、ほおのふくらみ、耳の動き、ひげの動きの5つの要素に着目している。この尺度を使ってマウスの表情から苦痛を読み取る訓練を受けた人は、写真の場合で80%、高画質動画の場合は97%の精度で苦痛の程度を正確に判断できたという。

 進化論で知られる英国の生物学者チャールズ・ダーウィン(Charles Darwin)は、人間以外の動物も顔の表情で痛みや感情を表現し、このことは自然淘汰によって発生したと考えていた。また、マウス・グリマス・スケールの5つの要素のうち、目の細め方と鼻とほおのふくらみの3つは人間にも共通していることは、動物の表情は深い部分で進化の過程に根ざしているというダーウィンの予想を支持するものとなった。(c)AFP/Marlowe Hood