【11月12日 AFP】ヒトが高い言語能力を持ち、よく似た遺伝子を持つチンパンジーが言葉を話さない理由は、たった1つの遺伝子にある2つの小さな違いで説明できるかもしれないとの研究論文が、11日の英科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表された。言語障害を伴う病気の治療に役立つ可能性があるという。

■言語障害を引き起こす遺伝子「FOXP2」

 研究者らは約10年前、ある家系の珍しい先天性言語障害のある全ての人において、FOXP2という遺伝子に同じ欠陥があることを発見した。その後、発達性不全失語症という別の言語障害の患者のグループでも、FOXP2が変異しているケースがあることが分かった。

 一方、チンパンジーのFOXP2遺伝子を研究していた生物学者は、この遺伝子によってコーディングされたタンパク質を構成する数百のアミノ酸のうち、2つがヒトとチンパンジーで異なっていることを突き止めた。

 ここから、人間とチンパンジーの言語能力の違いはFOXP2の違いによるのではないかとの説が生まれ、論争が続いていた。

■発話の仕組みに影響、言語障害治療に期待

 この説を検証するため、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California in Los Angeles)のダニエル・ゲシュウィンド(Daniel Geshwind)教授はヒトとチンパンジーのFOXP2について、たんぱく質合成を比較。また、FOXP2が「マスター遺伝子」としてどのように他の遺伝子を活性化させたり、働きを抑えているかを調べた。

 実験の結果、FOXP2はヒトとチンパンジーで異なる影響を遺伝子に与えていることが明らかになった。ヒトのFOXP2は、高度な認知機能と言語をつかさどる大脳皮質の領域に変化を誘発するとともに、認知機能と運動協調性に関与する大脳基底核の線条体にも影響を与えていた。

 ゲシュウィンド教授は、ヒトのFOXP2は発話の神経運動だけでなく、身体的な構造にも関係している可能性があると見ている。言い換えれば、チンパンジーには「発話のための適切な器官」がないため、仮にヒトの脳をチンパンジーに移植しても話せるようにはならないはずだという。

 研究チームは、FOXP2が影響を与える遺伝子を調べ、自閉症や統合失調症など言語障害を伴う病気に特徴的な遺伝子の変異を発見できれば、治療法の開発につながる可能性があるとして期待を寄せている。(c)AFP/Marlowe Hood