【12月28日 AFP】今年11月、日米それぞれの研究チームが、ヒトの皮膚から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作ることに成功したと発表した。さらに12月には別の研究チームが、鎌状赤血球貧血症を患ったマウスの皮膚から作成したiPS細胞を使った治療に成功したことを明らかにした。これらは科学者たちが長年夢見てきた大発見で、生物学の分野では「ライト兄弟の最初の飛行機」に匹敵するほどの大躍進だという。

 幹細胞は体のあらゆる細胞に分化することができるため、病気の治療に大きな可能性を秘めており、損傷を受けたり病気になったりした細胞、組織、臓器の代わりに用いられることが期待されている。これまで行われてきた胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究は胎児に成長する可能性のある胚細胞を使用するため、倫理的問題が指摘されてきた。今回発見された技術では、その点が克服できる。

 新たな技術の大きな利点の1つに、作成手順の単純さがある。4つの異なる遺伝子をヒトの皮膚細胞に導入することでiPS細胞が作成できるため、複雑でコストのかかるES細胞の研究と違い、通常の研究所でも作ることが可能だ。ES細胞の入手・利用は非常に難しかったため、この技術が発見されるまでは、病気がどのように進行するかを見るためには、動物か死体から取り出した臓器で研究せざるを得なかった。しかし、皮膚、組織、臓器由来のiPS細胞はシャーレで簡単に作れるため、病気の治療法を研究するプロセスとなる病気細胞の遺伝子構造の解明を容易にした。また、病気の治療に効果的な薬物を特定する化学スクリーニングへの利用も可能となり、人命を救う新薬販売までの期間を大幅に短縮することが期待される。

 皮膚由来のiPS細胞の利用は、最終的には特定の患者の遺伝情報を有する幹細胞の作成を可能にし、移植された組織や臓器の拒絶反応をなくすことができるとみられている。これはすでに鎌状赤血球貧血症を患ったマウスでは成功が確認されている。また、実験につかったマウス自身の細胞を使用したことから、拒絶反応を抑制するため危険を伴う免疫抑制剤を使う必要もなかったという。

 一方で、幹細胞研究の第一人者たちは、皮膚由来のiPS細胞はまだES細胞の代替にはなっておらず、今後もならないかもしれないと指摘する。ヒトの皮膚からiPS細胞を作ることに成功した研究チームの1つを率いる米ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)のジェームス・トマソン(James Thomson)教授は「この新しい研究はまだ始まったばかりで、われわれはこれらの細胞がどのように機能するかほとんどつかんでいない」と語る。「いまはES細胞研究を放棄する時期ではない」と述べ、ES細胞は依然、ほかの研究を評価するための「重要な基準」だと付け加えた。

 今後は、皮膚由来のiPS細胞をより安全に作る研究を進めるとともに、iPS細胞が時を経ても劣化しないことを確認する必要がある。(c)AFP/Mira Oberman