【11月21日 AFP】(一部更新、写真追加)日米それぞれの研究チームが、ヒトの皮膚から人工多能性幹細胞を作ることに成功したと、20日に発表した。疾患の治療に利用できるほか、胚(はい)細胞の使用をめぐる倫理問題を回避できるという。

 未分化状態の人工多能性幹細胞は、新薬開発や病因解明に役立てられる。最大の利点は、倫理的に問題とされるヒトの受精卵や卵子を使用する必要がないことだ。

 人工多能性幹細胞の場合、患者自身の遺伝子を使いその患者に拒絶反応なく移植できる細胞を作り出せるため、治療用細胞としての利用が期待されている。

 今回開発された新たな技術により人工多能性幹細胞を大量に培養できるようになるため、がんやアルツハイマー、パーキンソン病、糖尿病、関節炎、脊髄(せきずい)損傷、脳梗塞、やけど、心臓病などさまざまな治療研究における急速な進展が見込まれる。

 胚性幹細胞(ES細胞)は人体に含まれる220種類の細胞いずれにも成長することができるため、「魔法の弾丸」になりうるとみられている。しかし、米国の研究現場では、倫理的問題からヒトの受精卵や卵子を使用することは規制されている上に、ES細胞を研究できる資金や技術的専門知識を持つ研究所はほとんどない。

 米国の研究の主著者である米ウィスコンシン大学(University of Wisconsin)のジェームス・トマソン(James Thomson)教授は、新技術が非常に単純で普通の研究所でも比較的簡単に再現することができるものだと指摘。「この技術により政治的論争が排除できるため、資金調達も進みそうだ。研究は加速度的に進むだろう」と語った。

 ホワイトハウスは今回の発見について、「科学の高尚な目標と人命の神聖さの双方を傷付けることなく、医学的問題を解決できる方法」と、称賛した。

 ウィスコンシン大学の研究チームと京都大学(Kyoto University)の山中伸弥(Shinya Yamanaka)教授率いる研究チームはそれぞれ同時期に、レトロウイルスを使って4種類の異なる遺伝子をヒトの皮膚細胞に導入し、人工多能性幹細胞の作製に成功した。京都大学チームは5000細胞から1個の人工多能性幹細胞の作製に成功。一方、ウィスコンシン大学チームは1万細胞で1個だが、京都大学が利用したがんを誘発する可能性のある遺伝子は利用していない。

 両チームの技術とも、遺伝子を運ぶために用いたウイルスのコピーを細胞が保持しているため、突然変異の危険性がある。次の重要な課題は、レトロウイルスに頼らずに、皮膚細胞を幹細胞に変える遺伝子を刺激する方法を発見することだ。

 山中教授は、幹細胞は病気の原因解明や新薬開発に非常に有用だと指摘する。安全性の問題を克服できれば、ヒトの人工多能性幹細胞の細胞移植治療への利用の道も開けるという。一方、人工多能性幹細胞は最終的にはES細胞より有用だと証明される可能性もあるが、前者が後者に取って代わると結論づけるのは時期尚早だとの見方も示した。

 トマソン教授は、人工幹細胞をめぐるすべての問題が解決されるには数年かかるかもしれないとしながらも、最終的にはES細胞と変わらない役割を果たすだろうと語った。(c)AFP/Mira Oberman