【6月1日 AFP】5月31日発売の英国の科学誌ネイチャー(Nature)に、「野生生物に個性があるのはなぜか」と題した論文が掲載された。

 手に乗せたパンくずを差し出すと、あるスズメは喜んでついばみ、別のスズメは怯えたように遠巻きに周囲をはね回る。新たに発表された論文によれば、1つの種の中でこのように行動に差違が生じるのは、単なる偶然ではなく、それぞれの個体に「個性」があるからだとし、また各個体のこうした行動特性は、複雑な進化プロセスを経て生まれたものだという。

 かつて「個性」はヒトだけに固有の特性だと考えられてきた。しかし近年では、イカ、クモ、ネズミ、サルなどさまざまな野生動物にも「個性」があると論じられるようになっている。

 近年行われてきた多くのの観察では、大きさ・年齢・生息環境・性別が同じであっても、危険や好機に直面した際に個体間で常に異なる反応を示すことが確認されている。

 たとえばシジュウカラでは、捕食動物と出会ったときに常に勇敢に立ち向かう個体もいれば、必ずすぐに逃げだそうとする個体もいる。

 同一種間で個体ごとにこのような行動特性の違いがあるのはなぜか。ホルモンなどの影響によるとみる科学者もいるが、オランダ・フローニンゲン大学(University of Groningen)のマックス・ウォルフ(Max Wolf)氏率いる研究チームは、いわゆる「適応進化」が影響しているのではないかと提唱する。

 たとえば、ミヤコドリという鳥の場合、2つのまったく異なる生活環境を選ぶ生態がある。一方はえさも少ない劣悪な環境をあえて選び、ごく若いうちから子育てをする。他方はえさが豊富で理想的な環境を選び穏やかな生活を送る。

 ウォルフ氏らはこうした生物の行動体系を観察した結果、劣悪な環境で若くから子育てを開始した群は失うものがないため、積極的にリスクを負うようになったのではないかと結論づける。

 つまり、同一種間の行動特性の違い(ミヤコドリの例では攻撃的で勇敢な群と穏やかでおとなしい群)は、単純にその場の環境に順応したものではなく、生存競争に打ち勝ち、子孫を残すためにはその行動特性が適しているという「適応進化」を遂げた結果だと考えられるのである。(c)AFP/Marlowe Hood