【9月12日 AFP】米アップル(Apple)がスマートフォン(多機能携帯電話)「iPhone(アイフォーン)」の新機種「5S」に搭載した指紋認証システム「Touch ID」は、モバイル端末のセキュリティーをめぐる新時代の幕開けとなるかもしれない──。

 20日発売予定の「5S」には、これまでのパスコードを使った承認方式に代わり、指紋を使った生体認証システムが採用されている。コンピューターセキュリティーの専門家は既にこのシステム「Touch ID」を高く評価しており、ライバルメーカーも何かしらの形で追随することが予想される。

■ITセキュリティーの主役になるか、指紋認証

 米調査会社レティクル・リサーチ(Reticle Research)のアナリスト、ロス・ルビン(Ross Rubin)氏は「Touch ID」について「毎日何度も入力しなくてはならず、多くの利用者を煩わせていた」(パスコード入力という)問題を解消し「主役に躍り出た」と評した。

「5S」には、本体画面下部のホームボタンにセンサーが組み込まれていて、利用者の指先の皮の深層まで読み込み、指紋の形状を認識する。最大5人分の指紋を記録でき、家族など信用している相手と端末を共有することも可能だ。

 アップルのフィル・シラー(Phil Schiller)上級副社長によると、読み込まれた指紋データは端末内部に新搭載されたチップに記録され、利用のたびに認証精度は高まるという。

「アップルは、記録した指紋データは暗号化される上、アップルその他の外部サーバーに送られることはないと述べている」。英国を拠点とするセキュリティー・コンサルタントのグレアム・クルーリー(Graham Cluley)氏は、米国家安全保障局(National Security AgencyNSA)による監視活動についても触れつつ、自身のブログにこう記した。

 モバイルセキュリティーアプリを提供する米「Lookout」のマーク・ロジャース(Marc Rogers)氏は、指紋認証と暗号入力などの2次的な認証機能を併用することで、スマートフォンのセキュリティーは格段に向上すると指摘。インターネット銀行での送金を例に取り、オンラインバンキングのアプリに指紋認証でログインし、送金する際にはさらにパスコードを入力すれば、「モバイル端末のほうがパソコンより安全になる」と説明した。

■どこにでも残ってしまう指紋、課題も

 ただ、「Touch ID」がモバイルコマース(電子商取引)を変えるかどうかは、アップルが同技術をiPhone用アプリの開発者にどのように公開するかに掛かっているといえる。

 また、セキュリティー専門家は指紋認証も完璧ではなく、やがてはハッカー攻撃の対象となるだろうと警告する。こうした専門家の1人、ブルース・シュナイアー(Bruce Schneier)氏は、「人の指紋は秘密のものではない。触れた場所にはどこにでも残るものだ」とコメント。精度の高い指紋認証システムでさえ、日本の研究者が10年以上も前にグミキャンディーの材料となるゼラチンを使ってだますことに成功していると指摘した。(c)AFP/Glenn CHAPMANIT