【4月9日 AFP】加入者が小型アンテナで無線通信経由(OTA)の電波を受信し、インターネット経由でテレビを視聴できるサービスを打ち出した新興企業アエレオ(Aereo)が、米放送界を守勢に立たせている。

 今月1日、アエレオはニュースのトップを飾った。大手放送各社がアエレオの事業は著作権侵害にあたるとしてサービス提供差し止めを求めた訴訟の予備判定で、アエレオ側に有利な結果が出たからだ。

 現在もまだ審理中のこの訴訟を一部の人々は画期的なテストだとみている。消費者にとってはテレビの視聴方法を、第3者を通じたインターネット視聴に移行できるのかどうか。放送局にとっては、自分たちのコンテンツの支配権を維持できるのかどうか、だ。

 メディア界の大物、バリ-・ディラー(Barry Diller)氏を後ろ盾とするアエレオは、2012年初めにニューヨーク(New York)地域でサービスを開始するとすぐさまABCNBCCBSFoxの4大ネットワークから著作権侵害で訴えられた。

 アエレオ側は自社サービスについて、再放送をしているのではなく、加入者に個別アンテナを渡し、それでテレビのライブ視聴や録画視聴を可能にするもので合法だと主張している。

 本格的審理はこれからだが、サービスの差し止め命令要求に関する予備判定で、米連邦控訴裁(連邦高裁)の陪審団はアエレオの主張に同意した。同陪審団は2対1で、アエレオは著作権法に抵触するだろう「公の実演」の再送は行っておらず、単に加入者に放送を無料で受信・録画するためのアンテナを貸し出しているだけだとし、一審判決を支持した。

 アエレオ創業者で最高経営責任者のチェット・カノジア(Chet Kanojia)氏はこの判定について「消費者が無料テレビ放送にアクセスできることが、今もこの国で有意義であり、公共の電波の利用と引き換えに公益のために尽くすという放送局の誓約と取り組みが、今もわが米国社会の構成の中で重要だという強いメッセージを発するものだ」と歓迎した。

 判定は消費者の勝利だという声もある。米国のテレビ視聴者の大半を「支配」するケーブルテレビ会社の制約から消費者を解き放つ、というのだ。

 インターネット上の権利擁護活動に取り組む米非営利団体、電子フロンティア財団(Electronic Frontier FoundationEFF)のミッチ・ストルツ(Mitch Stoltz)氏も判定は「アエレオのような企業に対し、テレビ技術を視聴者の支配の下に置かさせることを奨励するもの」だと評価する。「この業界は毎年料金が上昇する業界。ケーブルテレビ会社はさらに多くのチャンネルを提供し続けているが、平均的視聴者が見るのはせいぜい5~10チャンネルだ。視聴者が別の選択肢を持とうとする時代に入りつつあるだろう」

 米コンピューター通信産業協会(Computer & Communications Industry AssociationCCIA)のエド・ブラック(Ed Black)氏は、「クラウド・コンピューティング業界の合法性を試す」判定だと述べた。「消費者は海賊行為と言われることを心配することなく、自分たちが合法的に取得したコンテンツにクラウド上でアクセスできるべきだという我々の見解に裁判所が同意した」

 しかし、主要ネットワークを代表する全米放送事業者協会(National Association of BroadcastersNAB)は、著作権法を侵害する「非合法事業」の差し止めを裁判所が退けたことは「遺憾」だと発表した。NAB広報担当のデニス・ワートソン(Dennis Wharton)氏は陪審団の中で少数派だった、アエレオの個別アンテナのシステムは著作権法の適用が届かないように設計された「不正」なものだとした反対意見に救われると語った。
 
 アエレオが大手放送局やケーブルテレビ業界にとって脅威となるかどうかは未知数だ。同社では現在の加入者数を発表していないが、ニューヨーク地域で数千人程度と推計される。だが、まもなく20都市以上でサービス開始を計画している。

 金融系調査会社BTIGリサーチ(BTIG Research)のリチャード・グリーンフィールド(Richard Greenfield)氏は、「アエレオやその他さまざまなストリーミング・サービスによって、テレビ業界の地勢は移行しつつあり、放送局各社はその挑戦を受けて立つ必要がある。放送業界はアエレオの合法性を受け入れ、それが彼らのビジネスにとってどういう意味を持つのか、理解しなければならない」と述べている。(c)AFP/Rob Lever