【1月6日 AFP】キューバのフィデロ・カストロ(Fidel Castro)前議長、旧ソ連元大統領のミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev)氏、ローマ法王ベネディクト16世(Pope Benedict XVI)といった要人が、マイクロブログサービス、ツイッター(Twitter)上で次々と「殺されて」いる。「ガセネタツイート」で世界的に有名なあるイタリア人男性による仕業だ。

 この奇妙な趣味を持つトマッソ・デベネデッティ(Tommasso Debenedetti)氏の最近の犠牲者は、人気児童小説「ハリー・ポッター(Harry Potter)」シリーズの作者J・K・ローリング(JK Rowling)氏。同じ英国の作家、ジョン・ル・カレ(John le Carre)氏を装った偽のツイッター・アカウントから、ローリング氏「事故死」の報が発信された。

「訃報はツイッターで広まりやすい」と、デベネデッティ氏はAFPの電話取材に答えた。同氏は40代。普段はイタリア・ローマ(Rome)の学校で文学を教えているという。

 ジョン・ル・カレ氏を装ったアカウントには、2500人のフォロワーがいた。その中には英国やドイツ、米国の大手メディアのジャーナリストたちも含まれていた。そこで「ローリング氏が死んだと、ジョン・ル・カレ氏が発信する、という設定にしたんだ」。このつぶやきは何度もリツイート(転送)され、果てはチリのテレビ局が誤報を流すまでに至った。

 文字通り偽者アーティストのデベネデッティ氏だが、偽の発信の目的は「ツイッターが報道機関になるということを示したかったんだ。世界で最も信頼できない報道機関だね」と語る。「不幸なことに、報道はスピードが命だから、誤報が広がる速度も爆発的だ」

 発信した「ガセネタ」をジャーナリストの誰かがリツイートすると、たとえ記事になったことのない内容でも、噂に真実味が加わると言う。「そうしてしまいにはみんなが、元の発信源はどこだったのか、忘れてしまう」

 インターネット上で犯した数々の悪ふざけの中でもデベネデッティ氏が「誇り」としているのは、バチカン市国の国務長官(首相に相当)を務めるタルチジオ・ベルトーネ(Tarcisio Bertone)枢機卿を装って法王死去の偽ツイートを発信した後、法王庁のフェデリコ・ロンバルディ(Federico Lombardi)広報局長に噂を否定する発表をさせたことだ。

 またシリアのバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)大統領が死去したという偽ツイートによって、石油価格を高騰させたとも自慢する。さらに旧ソ連のゴルバチョフ元大統領死去の偽ツイートでは、オンライン百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の掲載内容が更新され、死亡した日付が加えられたと言う。

 デベネデッティ氏は一連の「ガセネタツイート」はゲームだと称し、それによって世間に生じる不安などにはまったく無頓着だ。しかし偽ツイートを投稿して1時間以内には、広まっている噂は自分の作り話であることをツイッター上で打ち明けると言う。「僕がターゲットにしているのは要人ばかりで、彼らは自分の意のままに、即座に反論するあらゆる手段を持っている。あまり有名でない作家だとか、隣に住む人の偽の訃報なんて決して流さないよ。やりすぎるつもりはない。僕は詐欺師じゃないからね」
 
 またジャーナリストたちはもっと「慎重になって、必要なあらゆる検証を行うべきだ。特に地方紙や地方ラジオ、こうした罠に最も引っかかりやすいインターネット・メディアに言える」とデベネデッティ氏は批判する。「僕はただ、みんなが誰にでもなりすませるソーシャルメディアの危うさを示したいだけだ」(c)AFP/Michele Leridon